Can't Touch Them Now Madness EX Theater Roppongi Vol.2
あのライヴの日から、1ヶ月以上の時間が経ちました。あの時の記憶がかなり速いペースで忘却の彼方へと去り始めているので、今思い出せる事を書いておこうと思います。
今回一番驚いたのは、客層の幅広さ。前回「老若男女」と書いたのは全く誇張ではなく、若い女子が目立ったのがとても印象的でした。勿論、リアルタイム世代の人も負けてはおらず、「幅広く愛される国民的バンド」という本国での評価が、ここ日本の客層にも反映されていました。
英国人観客は前回ほど不穏なメンツではなく、仕事の帰りにちょっと寄ったそれなりの立場の人が多いように見えました。EXシアターが殺伐とした雰囲気にならなかったのも、これが影響しているように思います。
Suggsは、メンバー構成の関係上ほぼ1人でヴォーカリストとしての役割を全う。息切れしたり声が掠れたりするような事もなく、安定したまま快調に歌い切る。
MCも冴え、日本人を置いてけぼりにして英語で盛り上がる観客に4文字言葉を使って窘める姿にも若い頃と変わらぬ鋭さが。「Take That? One Direction? ...We are Madness」という、英国アイドルグループの名前を挙げておどけた後に「NW5」へ雪崩込む流れは最高。
初めてその姿を拝む事が出来たLeeですが、とにかく大忙し。サックスは勿論、抜けた人物の代わりのハーモニー、更に「Mumbo Jumbo」でのダミ声リード・ヴォーカルを担当。更にステージ狭しと歩き回ってのパフォーマンスなど、八面六臂の活躍。
ただし、ハーモニーは同期演奏(テープ)で流していたり(誰が歌ったものなんだろう?)、サックスも吹かない箇所が多々あったので、上手く省エネで流していたのも事実。その分、爆発力も凄かった今回のライヴアクトでした。
Chrisも初めて生で観たメンバーですが、『Madstock』で見せた全身迷彩服のような不穏な格好ではなく、キュートなおじさんといった感じでした。それは前回書いた「One Step Beyond」前のMCに顕著。
気になったのは、PAのミスなのか、本人が調整に手こずったからなのか、ギターソロの場面でいまいち音が前に出てこなかった事があった点。何故かギターチェンジする事なく、レスポール1本で最後まで弾き通したので、アームを使う曲ではニュアンスを再現するのが大変そうでした(チョーキングとビブラートだけではやっぱりね)。元々、アーミングを多用するギタリストですよね、彼って。
あまり派手なアピールはしなかったBeddersですが、メンバー随一の演奏力は健在。背中をピンと延ばして、まるで糸でも紡ぐかのようにフィンガーピッキングする姿に惚れ惚れします。ライヴ中は気が付くと、その指先に目がいってしまいました。最小の動きで最大の効果を生み出す、見事な仕事ぶり。
バンドが「Cardiac Arrest」のイントロの入りを失敗し、演奏が空中分解。思わず頭を抱えていた場面が忘れられません。
今回はWoodyにもマイクが向けられる場面があり、何事かを喋っていました(聞き取れず)。当然ながら一番体力が要求されるパートですが、飄々と最後まで叩き切る安定感。何やらCharlie Wats的な貫禄が付いてきましたね。
今回、ライヴ終了後に彼のスティックは客席に投げ込まれたのでしょうか?残念ながら、友人Fは2回連続での獲得は成りませんでした。
リーダーのMikeも今回はMCを少しだけ担当。奥まった位置なのと、キーボードを収納する箱のために、どんな機材を使っていたかは判別出来ず。スタンドマイクが設置されていたから、コーラスも担当していたのでしょうか?
モニターのようなものが見えた気もしたので、シーケンスや生演奏以外のパートの同期も担当していたのでしょうか。後列にいてもわかる長身ぶりがリーダーとしての存在感をアピールしていました。今までよりソフィスティケイトされた新作のサウンドには、彼のプレイが重要な役割を果たしていたように感じます。
そして、脱退したChasの不在を痛感したのは、MCや客席の煽り、トランペット演奏は当然として、個人的には特徴的なハーモニーが聴けなかった事。
Suggsの歌を食わんとせんばかりの全力のハモりは彼らの楽曲に確かな彩りと力強さを加えており、フロント2人の声のせめぎ合い(まるで殴り合っているかのよう)がMadness流Nutty Soundの重要な一翼を担っていたのだと今回強く感じた次第。
非常に充実したライヴだったのは何度も書いた通りですが、Madnessの演奏以外で一つだけ気になった点を。
前回「ライヴ中に酒を買いに行く事も出来る気安さ」と書きましたが、AXの時と違い、このEX Theaterでは自分の立ち位置を離れ、ビールを買いに行ったり、トイレに行ったりする観客が散見されました。
1階は椅子席ではなくスタンディングなので、元いた場所に戻る…というのもライヴハウスっぽくない感覚だなと思っていましたが、気になったのはそういったタイミングが、ほぼ全て新作からの曲を演奏している最中だった事。
ライヴの楽しみ方は人それぞれなのは理解しています。「自分の聴きたい曲だけ聴く事の何が悪いのだ?」と、お叱りを受けてしまうかもしれません。それでも、あれはちょっと露骨過ぎませんか?当然、ステージの上からはオーディエンスの動きはよく見えているでしょうし、メンバーがどう思ったかを考えると複雑な気分になりました。
これは本当に個人的な意見ですが、自分にはちょっと共感し難い行動でした。ハッピーだったライヴの中で、唯一気になったのがここです。