(Revenge of the)United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

21st. Apr. 2019

 TM Network35周年のこの日、全国の映画館で行われたこのイベントに参加した。

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amass.jp

 

 

 元々1人でも参加する予定だったが、10年以上音信不通だったかつてのバンドのヴォーカリスト(以下「北条」と記す)から突如連絡があり、バンドメンバー含む旧い仲間達で鑑賞することになったのだ。

 TMN“終了”時の我が状況、及び想いに関しては前回記したので省く。

micalaud.hatenablog.com

 北条によれば、彼はあの時私が直前で終了ライヴに参加出来なかった事がずっと心の片隅に引っ掛かっており、そのために今回は一念発起し、怪しまれる事を覚悟の上で私を誘ったという事だ。年賀状すら返ってこない友人の突然の電話を素直に受け取れるほど私は純粋には人生を歩めなかったが、そういう気遣いを25年持ってくれていたのである。ありがたい事ではないか。

 

 我々が観たのは船橋ららぽーとのTOHOシネマズだったが、空席は全く見当たらず、我々よりも少しお兄さん・お姉さん世代を中心に県内のFANKSが集合していた。これほど人を集められるのだから、TMの人気の根強さはかなりのものだ。

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 内容は、既にヴィデオやDVDで発売されている『Last Groove』2日分5時間半を一気に放映するというもの。ライヴ1日目と2日目の間にはインターバル(トイレ休憩)を挟むものの、かなりの長時間上映となる。チケットもそれなりの値段になるわけだ。
 ソフト化されたものをそのまま流すだけなので、途中に入るリハーサル風景などもそのままだ。木根氏の即興ドラムや、宇都宮氏(以下「ウツ」と表記)がミーティングからこっそり帰るシーンなどでは客席から笑い声も上がっていた。

 前述リンクの記事通り、私は通してこの映像作品を観た事がない。勿論、当時の状況やライヴの流れは知っているし、曲ごとの映像はバラバラな形で楽しんだ事はある。だがフルで観るのは今回が正真正銘初めてなのだ。ライヴ自体を観られなかったのは何度も書いている通りだし、今回が人生で最初のTMN終了ライヴと向き合う体験になったわけだ。
 北条が25年間持ってくれていた、私を「終了ライヴに連れていけなかった」悔恨。図らずも私自身、まともにこのライヴを観た事はなかったわけで、今回の誘いは最高のタイミングだったと改めて感じた次第である。

 

 今回の上映は、35周年を記念して発売されるBDボックス仕様の、映像のリマスター・リストアが最大の売り物であった。

natalie.mu

 早い話が映像作品集の販促イベントなのではあるが、綺麗になった映像を大画面で、TMのアニバーサリーにFANKS達と集って観る事は十分に意義がある事だ。まして、メンバーの1名があのような状況になり、活動が期待出来ない現状。参加しやすいイベントを行ってくれるだけでありがたいと思わなければならない。

 映像リマスター・リストアの効果は、言われてみれば…という程度。勿論最初のリリースに比べれば明らかに解像度もアップしているのであろうが、劇的に変化したという感じではなかった。
 だが、そういった事は私にとっては問題ではない。例えば、今回の上映作品がヴィデオテープが刷りきれるくらい繰り返し観たソフト(『Gift for Fanks Video』『Camp Fanks! '89』『Fanks "Fantasy" Dyna-Mix』など)ならばこの長丁場で中弛みしてしまう事もあっただろうが、繰り返し書いている通り通して観るのは初めてである。非常に新鮮な気持ちで、ライヴを観る心構えそのままに楽しませてもらった。

 

 勿論、前回の記事で挙げたこのライヴに対する不満点というものも、全く変わらずに存在していたのも事実だ。
 リード・ギタリスト2人中心のサウンドは変更なし。木根氏のギターの音量が上がっている様子はなく、必死に耳をそばだてて聴いていたが、途中で何ヵ所か聞こえてきたクリーン・トーンの音も北島・葛城両氏のどちらかであろう。その分、木根氏はハーモニカやエレピで見せ場はあったが、3名のギタリストのアンサンブルは今回も堪能する事は出来なかった。音に関しては、目立つリミックスは行われていないのだと思う(リマスターはされていると思うが)。
 原曲に忠実なアレンジ面に関しては、後からの作業ではどうにもならないのでここで書いても仕方ないが、音の分離が良い分、小室氏が打ち込みトラックの上に即興で重ねるシンセの音が非常に耳についた。はっきり書くと、あまり効果的とは思えないのである。勿論、シンセソロの時間やここぞの手弾きはさすがと言う他ないのだが、この辺はアレンジも含め、このライヴが、ひいては“終了”決定自体が急拵えであった事を色濃く感じさせた。

 

 だが、そういったかつてのTMらしさの薄いライヴだったとはいえ、ステージングは非常に魅力的だった。この点、以前抱いていた印象とは大きく変わった点だ。
 必要最低限のアレンジにより、各奏者の技量に頼る所が大きくなったのは前述記事で既に書いたが、それを短い準備期間で完璧に応えたバック陣の演奏技術。音楽評論の分野で軽んじがられがちなTMだが、ここは強く物言いを付けたい。北島健二山田わたる葛城哲哉阿部薫は間違いなく日本屈指のミュージシャンである事がこの作品には刻まれている。
 装飾を廃した(そうせざるを得なかった)ステージを輝かせたのは、演奏陣の技量だけではない。あれから25年が経って実感したのは、何よりもフロントマンであるウツ氏の大きな成長である。終了までの空白期間、T.UTUとしてソロ活動を行い、ツアーをこなした彼は、明らかにスケールアップしていた。その披露の場が、この終了ライヴであったと言っても過言ではない。エンターテイメント性を用意出来なかったステージだが、宇都宮隆というパフォーマーの技量により、人によってはベストのステージに挙げる程の完成度まで高められたのだ。

 今回のイベント後北条と話したのだが、宇都宮隆という人は我々が最初に認識したヴォーカリストである。彼が全ての出発点なので、もはや存在するのが当たり前の存在だった。そういった認識だったから、彼の実力というものを客観的には見られなかったのも正直なところなのだ。
 硬派を気取る音楽ファンから、彼の奇矯なダンスパフォーマンスや、抑揚のないヴォーカル・スタイルが嘲笑されている事は知っている。音楽ファンどころか、同業者からも好意的に見られている例は少ないように感じる。少なくとも、TMをパロディ化したUnicorn『PTA』の歌真似などは、少なくともFANKSの立場から聞けばリスペクトを感じられるものではなかった(好きな曲ではあるが)。
 だが、あのブレス箇所が殆どないサディスティックな小室メロディを安定したピッチで歌い上げる事は、凡百の歌手では難しい事だと気付くのは自分自身が音楽を創り初めてからの事だった。しかも、それを複雑なダンスをこなしながら歌うのである。あまりに激しく踊りながら歌うので口パクを疑われて本人も傷付いたようだが、あれだけ歌えるのだからそれも当然だろう(ちなみに彼は口パクは下手だと思う)。

 そんなメンバーそれぞれのミュージシャンとしての実力に気付かせてくれたのが、今回のLast Groove上映だった。デジタル音楽の権化として世間に知られたTMが、最後の瞬間にそのフィジカルの強さを見せ付けた。皮肉なようであり、必然のような結末であったように思う。

 

 上映終盤、“終了”を象徴する「Nights of the Knife」、アンコールでのTMの原点「Time Machine」(スタジオ音源が存在せず、活動初期のステージで演奏されていた幻の楽曲)が流れる辺りで、周囲からはファンのすすり泣く声が聞こえてきたという(同行の友人談)。私はそれに全く気付かなかったが、当時の気持ちがフラッシュバックした人も多くいただろう。映像がまさにTime Machineの役割を果たしたわけだ。
 私はそういった感情は全く起こらなかった。当時の苦い思い出はいくつか蘇ったが、その後彼らが復活する事を2019年の私は知っているし、再始動後初めてのライヴにも北条の誘いで行ったからである(本人はその事を忘れていたが…)。むしろ、次のフィールドへ旅立つ3人の姿を、清々しい気持ちで観ていた。
 ただ一度だけ、涙腺が少し刺激された事はあった。木根曲のバラード「Confession」が演奏された場面だ。

 私がTM楽曲で一番好きなナンバーであり、中学生時代から後にバンドを組む元ベーシスト(以下「上坂」)と2人でよく歌った曲だ。その思い出を形に残しておきたくて、(結果的には)スピサン最後のアルバムでカヴァーした事もある。勿論、その上坂をゲスト・ヴォーカルに呼んで収録したものだ。

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 自身の多感な時期の記憶、空中分解したバンド、そして不本意な形で終わってしまったスピサンというユニット…結果的に何も世に問う事は出来なかった私の音楽活動だが、自分なりに真剣にやっていた時期もあったし、勿論記憶に刻み込まれた楽しい出来事が幾つも存在した。そういった個人的な思い出が、離ればなれになりながらも未来を想う恋人同士を描いた歌詞とリンクして、さすがに大きく感情を揺さぶられた。

 上坂自身はそこまでこの曲に思い入れはないかもしれないが、前述のレコーディングの際には「中学時代に哲也君と歌った事を思い出す」と語っていた。今回はどうだったのだろうか。 

 

 この先のTMが、そして私自身がどのような道を歩んでいくのかはわからない。だが、私は何も諦めていないし、それは3人にとっても同じだと信じたいと思う。こういったイベントに参加出来たのは本当に良かった。誘ってくれた友人達にも感謝したい。