(Revenge of the)United Minds

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Scrambled Eggs and Today

 今月始め、バタバタと忙しない中ではありましたが、前々から気になっていた映画『イエスタデイ』を観ました。


 両親にこの映画の事を聞かされるまで何も知らず、鑑賞前にYouTubeにてティザー映像を観たのですが、その直後に「おすすめ」に表示された別の動画がこれ。


イエスタデイ(予告編)

 最初に見た映像と、登場人物も舞台設定も全く違う?


映画『イエスタデイ』予告

 これが最初に見た予告動画。

 少々混乱しましたが、どうやら2016年に同タイトルで同じくThe Beatlesをテーマにした映画が公開されていたようです。

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yesterday-movie.com

 私が今回観たのは、2019年秋現在公開中の英国映画、ダニー・ボイル監督作品の方の『イエスタデイ』です。何故同じ曲名をタイトルにしたのか…。

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yesterdaymovie.jp

 

 当然ネタバレなしでは感想を書けないので、その点ご了承願います。

 

 

 

 

 もし、自分以外の人間がThe Beatlesを知らない世界だったら…まるで現在我が国で隆盛を極める“なろう系小説”のようなパラレルワールド設定。勿論、過去にも似たような発想はいくつもあったと思いますが、あのダニー・ボイルが監督するのだからスケールが違います。あえて当世風のタイトルを適当に付けるなら、『ある日起きたらビートルズが存在しない世界だったから無双してみた件』といったところでしょうか。題材的に日本のアニメキッズには受けないでしょうが。

 

 感想はツイートで済ませる予定でしたが、2点強く感じ入るところがあったのでブログ記事にしてみようと思いました。

 

 まず1つは、The Beatlesが存在していない世界をシミュレートするという試みが大変興味深かった事。勿論、The Beatlesが現在の音楽の全てをクリエイトしたわけではありません。作品中の世界でも当然ポピュラー・ミュージックのマーケットというのはほぼこちらの世界と変わらず存在していましたし、FAB4が取り入れた斬新なソングライティングやアレンジ、革命的だったレコーディング技術というのは、想像でしかありませんが数年遅れで代わりの誰かが生み出していたのでしょう。
 作品中のリヴァプールは単なるサッカー(リヴァプールFCエヴァートンFC)と港の街。RadioheadPulpはこの世界でも人気を博しているのに、Oasisは存在すらしていないというのは洒落が効いていました(野暮な解説は控える)。
 何より、物語の重要なポイントとして登場する、海辺に一人で住むちょっと変わった老人。“彼”はこちらの世界で父親がそうだったように船乗りとして海に生き、何者かの凶行で斃れることもなく、有名でも何でもなかったが様々な事に立ち向かった幸せな人生だったと語る。主人公のジャックは、そこで一人涙し、映画のフィナーレに繋がる重要な決意をするわけです。ただし、”彼”に顔は似ていたと思いますが、背丈や声(というか訛り)はもう少し近づけて欲しかった気もします。*1

 

 もう1つは、やはりThe Beatlesの曲は並外れたパワーを持っているのだという事。これはどのように書こうともファンの欲目と判断されてしまうのが難しいですが、今回の鑑賞で一番印象的だったのがこの点でした。
 慣れ親しんだ4人の歌・演奏でなく、ジャックの歌とギター(もしくはピアノ)だけでシンプルに奏でられるこそ感じられるメロディの力。音楽的な革新性、歌詞やメンバーの言動を含めた社会への多大なる影響力といった点を差し引いても、The Beatlesの楽曲は“強い“な、と実感しました。
 ただしこの現代において、楽曲が良いだけで即スターダムに伸し上がる事が出来るかというと、決してそうではない。人によってはThe Beatles作品の中でもフェイバリットに挙げられる事も多い「In My Life」ですら、ローカルTV番組の司会者に適当に流されてしまう始末。
 インターネット、SNS音楽配信サブスクリプション…そんな時代に、純粋に楽曲の力のみでThe Beatlesが挑んだら果たしてどのように社会は反応するのか? そこにはジョージ・マーティンのプロデュースも、ブライアン・エプスタインのマネージメント&プロモーションも、ジェフ・エメリックの録音技術も、何より4人のルックスやキャラクターやミュージシャンシップ(歌・演奏・アレンジ全てを含む)もなく、ひたすら曲の良さのみでの真っ向勝負。そんなシミュレーションが面白く、この作品の魅力のひとつでもあるでしょう。勿論、「こんなに上手くいくはずがないだろう」と突っ込みを入れるのも一興だし、自分だったら同行動するか、と夢想してみるのもまた一つの楽しみ方。
 作品世界に身を浸してジャックによる“新曲“を聴くと、あれだけ繰り返し聴いて慣れ親しんだ楽曲も、今までの記憶をリセットしたかのように新鮮に受け取れるのが驚きでした。こういった作品を成立させるだけの揺るぎない説得力を持ったバンドは、それほど多く存在するとは思えません。
 さほど身構えて観ていたわけでもないのに、“The Beatlesが存在しない”という作品の世界観にいつしか没入していたのは、ダニー・ボイルの巧妙な舞台構築によるものなのでしょうか。勿論、ジャック役のヒメーシュ・パテルのシンガーとしての確かな実力がなければ、せっかくの名曲を観客に正しく伝える力が大きく損なわれ、映画として成立しなかった事は間違いありません。

 

 以上の2点が、ツイートの140文字では済ませられない感想になってしまった理由です。軽く楽しむ程度の認識でしたが、予想以上にフレッシュな感覚を味わえた事に自分でも驚き、記事にしてみました。

 

 蛇足ではありますが、映画を離れたところで自分自身でも様々に妄想出来る格好の題材を与えてくれました。例えば、The Beatlesが存在しなければ自分は音楽の道を志していたのか?
 TM Networkでポピュラー音楽に目覚め、楽器を買おうと決意していたのでリスナーとしてもプレイヤーとしてもアクションを起こしていた事は確実でしょうが、ギターを手にしていたかどうかは怪しいです。あのまま小室哲哉のEOS B200を買おうと努力するも親の反対に押し切られ、かといってテクノやハウス等のクラブ・ミュージックに染まりきる事も出来ず、現実より更に宙ぶらりんの状態だった中高生時代がイメージ出来ます。少なくとも、自分が生まれるより昔の英米ロックには殆ど興味を持たなかったでしょう。
 そもそも、Oasisが存在しなければ90年代以降の英国ロックを本格的に探ろうともしていなかったわけで、本当にどうなっていたか想像も出来ません。中学時代の延長で、流行りの邦楽にけちをつけながらそれを聴くしかない生活を送っていたんでしょうか。考えるだけで背筋が凍るようです。

 

 以下は完全に余談ですが、ビートルズの歴史を改変するというテーマは、かわぐちかいじ『僕はビートルズ』を始めしつこいくらい目にしてきました。
 私の遥か昔の記憶を辿れば、最初にこのテーマの作品を目にしたのが、フジテレビの新春隠し芸大会にて沢田研二が主演した『Back to the Future』のパロディドラマ。ジュリーのタイムスリップの目的は、1980年12月8日のNYでジョン・レノンの暗殺を阻止するというもの。数々のゴタゴタがあって何とかジュリーはダコタハウス前に辿り着きますが、時既に遅く目の前でジョンが撃たれる姿を呆然と見送る事しか出来なかった…という結末でした。
 もう一つ覚えているのが、音楽雑誌(「FM Station」か「FMレコパル」だったような気がする)で読んだタイムスリップもの小説。時間を遡ってしまった主人公が辿り着いたのは、The Beatles来日を控える1966年の東京。そこで出逢った男女は、若き日の父と母だった…という、これも『Back to the Future』翻案ものでした。話の内容はこれしか覚えていません。マーティと若かりしロレインのようなエピソードはあったんでしょうか? 当時ジュブナイル小説(今で言うところのラノベ)に夢中だった私には、少々捉えどころのない淡々としたストーリーでした。

 

 2010年代が終わらんとしている現在でも、未だ終わる事のないThe Beatlesをテーマにした創作。20年代、また新たな切り口での作品が創られるでしょうし、それがまた楽しめるものであればいいなと思っています。
 巷の噂では、本家Apple陣営も新装『Let it Be』(ジョージとポールの口論などメンバーが険悪なシーンを取り除き仲睦まじげな映像を強調したものになるとされている)を発表するとまことしやかに囁かれていますが、果たしてどうなりますか。

*1: この記事を書くにあたって調べてみたら、何とあの名優ロバート・カーライルが演じていたとか! それならば何の問題もないです。カーライルといえば『ケミカル51』で常にリヴァプールFCのキットを着込むチンピラを演じていたように、同クラブのファンとして有名なのが共通点と言えば共通点かも(無理矢理ですが)。

www.footballchannel.jp

 もはや今回の映画と全く関係ないですが、カーライルの事を調べていたらこんな記事もヒットしたので一応報告しておきます。