おまえらみんな変人
首にはネクタイ、足には包帯、手には金目鯛。
田舎はどこでもそうでしょうが、千葉県は都市部以外は自家用車無しでは生きていけるだけのインフラが整っていません。
特に我が故郷の交通状況は悲惨の一言で、ここに住むのならば普通運転免許証は最低限必要とされる資格と断言してしまっても問題はないでしょう。
つまり、生まれつき視力に問題を抱え、免許を取得するのが非常に困難な私にとっては、かなり厳しい環境というわけですが。
今年の夏に親友と会った時に、衝撃的な事を言われました。
「この街では、乗用車以外の移動手段を使う者は奇異の目で見られる。自転車でも訝しげな視線を送られるので、まして徒歩となると…」(大意)
誇張されてはいるでしょうが、妙に納得させられてしまうものがありました。
事実、我が町でもはや歩いている人を見かけることは少ないです。いても学生か、運動目的て川沿いを走る人のみ。
そんな中で、いい年こいた男がホイホイ歩き回っていたらどう思われるでしょうか。ここで先程の友人の発言に繋がるわけです。
私は前述のような問題もある上に、歩く事を苦に思わない人間なので(自転車が3年前にパンクして以来、東京でもメインの移動手段は電車と徒歩)、実家に帰った時も平気で外を散歩したりします。
予想はしていましたが、そんな私の行動がかなり多くの人に目撃され、怪しまれているようです。親からそのような話を多々聞くので、私の与り知らぬところでも好からぬ評判を立てられているのではないでしょうか。いや、間違いなく噂されているはず。
ただでさえ変化や刺激に乏しい田舎町。私のような人間は、格好の話の種になってしまうのでしょう。
今回このような記事を書こうと思ったのは、親が同じ地区の人から言われたという一言がきっかけでした。
「お宅の息子さんは、現在どのような仕事をなさっているのでしょうか?よく、私の自宅の前を歩いて通る姿をお見かけします。いつも、耳に何か付けているようですね。音楽でも聴かれていらっしゃるのでしょうか?」
実際は方言でぶっきらぼうな口調ですが、わかりやすいように標準語に直してあります。
その人のお宅の前を通った回数は決して多くはないはずですが、ここまで印象に残ってしまうようです。耳にイヤフォンを付けて音楽を聴いていることまでわかってしまっているようなので、私は相当じっくりと観察されている事がわかります。その事実に、何やら薄ら寒いような感情すら覚え、実家に帰っても大っぴらに外を歩くのはやめよう…と思ったのです。
歩くという人間の根本的な行為が、変わった人間である事の証左とされる。私自身は納得しかねますが、どうやら我が故郷の実態とはそういうものなのでしょう。
とはいえ、私自身も隙を与えすぎているのは事実。
土日をきっちり休めるような状況ではないので、実家に帰るのは平日の方が圧倒的に多かったりします。この時点でかなり危険信号。
それ以外にも、派出めの色を平気で着たり、夏は目を保護するためにサングラスを常用します。これも保守的なわが街からすれば”普通”からかけ離れたポイントでしょう。
更には、無意識のうちに歌を口ずさんでしまうという致命的な私の弱点も注目を集めている可能性が大きいです。ついこないだなど人気のない夜の遊歩道にて、暗闇だから誰もいないだろうと安心しきってThe Gospellersの「Armonia」を高歌放吟していたところ、暗がりのベンチで話をしていた女学生に挨拶されるという失態を犯したばかり。
地元の事ばかり批判しているようですが、私自身にも問題は多いのですね。
ただ一つ確かなのは、今の私には地元の環境がとても窮屈だという事です。今後ここで生活を送れるだけの忍耐力を持つ自信がありません。