Brian was a beautiful guy…he presented us well
栄光を直前で掴み損ねた男、ピート・ベスト。彼の物語はロックファンの多くが知っているはず。
The Beatlesをデビュー直前で解雇された理由は諸説ありますが、私はあくまで定説通り彼の技量の問題、この言い方がまずければバンドのカラーに合わなかった事が原因だと思います。それは『Anthology 1』での彼のドラミングを聴いての率直な感想です。
ちなみにかつて放送されていた深夜番組『金髪先生』にて、番組ホストのドリアン助川氏が「(ピートがクビになったのは)顔が悪かったから」と発言していましたが、これはどう考えても誤り。
この時代、最もハンサムだったのはピートでしょう。ジョージはまだあどけない。何が何でも左の二人が常に格好良い!という方も多くいらっしゃるでしょうが、あくまで公平に判断しての意見です。個人的には当然ジョージが一番男前だと思ってますよ、ええ。
閑話休題。今回はビートルズ話をしたかったわけではありません。
ピートの解雇が決定した時、それを彼自身に告げる酷な役回りを任されたのはマネージャーのブライアン・エプスタインでした。ジョン曰く、「汚れ役はアンタの仕事だろう」。
マネージャーとはいえ、メンバーに解雇を言い渡す時の心境は察するに余りあります。本音では「ジョン、君がこのバンドのリーダーなんだから、君自身が責任を持って話を付けたまえ!」と言いたいのをグッとこらえ、ピートを呼び出したのでしょう。
バンドなど所詮は人の集まり。それぞれに向き不向き、得手不得手は当然あるわけで、自分達の音楽を追求したいと考えた時、そこに適応出来ないメンバーが出てくる事もあるでしょう。
現在も色々と話題の辻仁成氏は、著書の中でなかなか上手くならないベーシストを辞めさせる話をしてました。「引き抜きたいメンバーがいたら、相手のバンドを解散させる。そして自分のバンドに加える。本当は自分のバンドも解散させて組み直した方がベター」と、実に彼らしい事も語っていました。この辺りは全てうろ覚えなので、誤認があったら申し訳ないです。
電気グルーヴは、結成時からのメンバーを居酒屋に呼び出して「お前らクビ~!」と容赦なく言い放った…と『The Last Supper』のライナーに書いていたような記憶があります。
実力が全てのプロのフィールドで成功しているバンドだからこそ、こういったエピソードを持っているのかもしれません。
一応、中学時代からバンドでリーダーを歴任してきた私ですが、幸いにもそういった機会はありませんでした。付いてこられないメンバーは自ら辞めていったり、フェードアウトしたりで、私が汚れ役になる必要もなかったのです。
特に上京後に組んだバンドはメンバーそれぞれの能力を買ってはいましたが、もし演奏面で不都合が出るようなら自分と馬論のスピサン組で何とかしてしまえばいい、と考えていました。不遜なようですが、しかしこれも若さですよ。
こんな私ですが、一度リーダーという役割と全く関係ないシチュエーションで決断を迫られた事がありました。当時の関係者はこのブログを読んでいないでしょうが、念の為詳細は伏せさせていただきます。
以下、続きから。
一時期、私は友人達が組んだバンドの手伝いというか、アドバイザー的な立場でサポートを頼まれていた事がありました。
音楽好きな人々が集まって、実際に楽器を持って演奏をしてみよう。そんなきっかけで始まったそのバンドの練習。そこにはゲストが度々訪れ、見学やセッション感覚で楽器を持って来る奴もいた記憶があります。
ある日、「是非、練習に参加してみたい」と言う学校の友人を一度連れて行ったことがありました。彼はバンドメンバーとも面識がある人物。普段から「ウェストコースト音楽が好きだ」と公言してはばからなかった事もあり(ただし、何故か具体的なバンド名や曲名は教えてくれなかったのだが…)、私自身も彼の音楽的技量を確かめたいという気持ちがあったのです。
スタジオに着くと彼は既に到着しており、カシオのファミリーキーボードを持ち込んで準備を始めていました。アンプ内蔵の61鍵くらいのモデルだったと思います。今のこの手のキーボードはエフェクターやアルペジエーター、更にはシーケンサーまで内蔵されているものが多いようですが、彼のキーボードにそういった機能はなかったように思います。
私は少し驚きましたが、ただ弾くだけならシンセサイザーと同じように使えるはず。楽器をここまで一人で運んできた事にむしろ感心していたのですが、バンドのメンバー達はそうは考えなかったようで、表情からありありと違和感が窺えます。「何でこのバンドにそのキーボードなんだ?」と言わんばかりの態度でした。
当日の練習で何を演奏したかは忘れてしまいました。覚えているのは、スタジオの機材を使ってデモテープのようなものを一発録りしようとしていた事です。ミキサーがあるので、カセットテープに録音するにしてもライン入力すればマルチトラックで録れたのですが(当然、後からのミキシングは出来ませんが)、私もそこまで考えが回らずスタジオ備え付けのマイク(SM57)で全ての音を拾う事に。
彼はSM57のすぐ近くに陣取っていました。内蔵アンプからの音量だけでは心許ないからでしょうか。何故バンドのキーボーディスト氏のように、ミキサー卓に繋ぐ事をしなかったのかよくわかりません。あるいは、誰もその方法を教えなかったのかもしれません。
同じ曲を二回演奏し、それを録音しました。ドラムやギターの音量にかき消され、彼の音は聴こえませんでしたが、個人的には全体的なまとまりも感じられ、なかなか満足のいく出来だったと思っています。
練習はそのままお開き。私は興奮気味の彼に付き合って、一緒に帰路に着きました。彼の音楽的な力量というのはわかりませんでしたが、練習を楽しんでくれたのならそれで良いと思っていたのです。
しかし練習当日の晩、既に自室に帰っていた私に、バンドリーダーから電話がありました。
「なぁ、あいつもう呼ばないでくんない?」
リーダー氏はいきなりそう切り出すと、その理由を簡潔に私に告げました。曰く、センスが自分達と違う。このまま毎回練習に参加されたらどう扱っていいかわからない、と。
「言っといてよ。別の所で頑張ってくれって」
彼がそこまで問題になるような行動をしたとは思っていなかったので、私は少し戸惑いましたが、バンドリーダー直々のお達しなら反論の余地はありません。
リーダー氏が彼を拒否した理由は、後日聞かせてもらったデモテープでわかりました。一回目の演奏は、マイク前に陣取った彼の音が大フィーチャーされていたのです。
彼はずっと弾きっぱなしでした。イントロのメロディ、歌メロ、間奏…全てをチープなブラス音でなぞっていたのです。アレンジメントとしては、これはかなり問題がありました。自分のバンドメンバー、例えば馬論が同じ事をやったら、私も強い口調で咎めたはずです。
二回目の演奏は、リーダー氏がこっそりマイクの配置を変えたらしく、かなりタイトなものになっていました。酷なようですが、彼の音が殆ど聞こえていなかった事に原因があると思われます。
もし彼がまた練習への参加を望んだらどうしよう。その時に、彼にはっきりとバンドメンバーの意思を伝えられるだろうか。
その事を考えると、とても憂鬱でした。彼が傷付くのは目に見えていたからです。ここ数年、折衝役に回る事が多く疲れ果てていた私ですが、思えばこの頃からこういう立場に置かれる事が多かったのですね。生来の性質なのでしょうか。
しかし彼は、それ以降バンドの事を話題に出さなくなりました。もしかしたら、彼なりにあのスタジオ内の空気を敏感に感じ取っていたのかもしれません。はたまた、単純に一度演奏しただけで満足してしまったのか。今となっては、それを知る術はありません。
私の擬似エプスタイン体験は、今のところこれだけです。皆さんも誰かに伝えたい事があったら仲介役に頼らず、出来るだけ自分の言葉でコミュニケーションを取りましょう。板挟みにされるのって、本当に大変なんですよ。