(Revenge of the) United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

フライアー・パーク・ライフ

 先月も紹介したこの本。

  冒頭には中村雅俊仲井戸麗市小堀裕之、木屋もとみといった四氏のインタビューが収められており、どれも愛を感じる良い内容だったのですが、特に興味深かったのは中村氏。

 何故、氏がジョージの邸宅であるフライアー・パークを訪れて対面したのか?というのが長年の疑問だったのですが、遂に本人がその理由を語ってくれたのです。

 

 中村氏は1stシングル「ふれあい」をリリースした時、その曲のプロデューサーからスプリンター「ロンリー・マン」の日本語詞を依頼されたとの事。

 スプリンターは、当時ダーク・ホース・レーベルからデビューしたジョージの秘蔵っ子デュオで、日本でのマーケティングを考えて日本語バージョンのレコーディングを日本側が提案したようです。

 彼らのプロモーションにも時間が許す限り付き合い、すっかり彼らと打ち解けた中村氏。「ふれあい」ヒット記念(でいいんだよね?)のご褒美でレコード会社から欧州旅行をプレゼントされ、ロンドンを訪れた際にスプリンターの2人と再会します。

「マサトシ、ボスに会うか?」

「ボスって、ジョージ・ハリスン!?」

 このような流れから、中村氏はフライアー・パークに招待されたという事らしいです。全てはスプリンターの2人がきっかけだったわけですね。

 

 A&M時代のダーク・ホースのカタログは、再発される兆しすら見えません。中村氏とジョージを結び付けたスプリンターや、デイヴィッド・フォスタージム・ケルトナーも在籍したAttitudesなどは、このまま永遠にCDで聴く事が出来ないのでしょうか。ジョージが全面プロデュース、演奏にもフル参加したスプリンターの1stは聴いてみたいものですが…。

 

 

 本とは関係ありませんが、ふと思い出したこと。

 

 一応、私にとっての初ジョージが8cmCDの「This is Love」である事は既に述べました。

 しかし本来の意味での“ハジレコ”が他に存在します。それは、7inchアナログの「美しき人生」(「What is Life」日本盤)なのです。

 これは、私が生まれる前から実家に置いてあり、存在に気付いたのは当然ながらビートルズに目覚めてからです。レコードプレーヤーは私が小学校の中学年の時点で撤去されてしまったので聴く事は出来ませんでしたが(初めて聴くのは2000年まで待たなければならない)、ある意味で最初に手にしたジョージ作品はこれなのです。

 ジャケット・スリーヴを見る度、西洋のお城の天守?で白いフルアコのギターを構える長髪髭モジャのジョージの姿がとても印象的でした。まさか、この“お城”がジョージの自宅だとは、この時は知りませんでしたが…。

 

 それにしても、誰が買ったのか。父のはずが無いのは確実です。

 我が父は(同世代の大人もでしたが)ジョージ嫌いを公言し、彼のギターソロや歌声、更にはルックスまでをも悪し様に罵っていました。この事は強烈な体験として私の中に残っており、今でも私は父に対してジョージの話を積極的にする気になれません。

 あくまで私の個人的な推測ですが、父の世代は自分達と同じ立場でレノン&マッカートニーに追随する立場だったジョージが、ビートルズ後期にかけて明らかな成長を見せながら(絶対的存在である)ジョンやポールに対し自己を主張している様に戸惑い、そこに強く反発したのではないかと思っています。お前は俺達と同じ目線でいろよ、出しゃばるな。そんな感じだったのでは無いでしょうか。

 加えて、著作でジョージへの批判を続けていたビートルズ評論家・香月利一氏からの影響も大きかったのだと思います。晩年の著作では、ジョージ(の成長)がビートルズ解散の原因、とはっきり書いていましたしね。

 閑話休題。事実、父に誰が買ったのかを問うてみても、叔母(父にとっては妹)が買ってきた、という答えが返ってくるのみ。叔母からビートルズの話を一度も聞いたことが無い点は引っ掛かりましたが、流行に敏感でオシャレだった彼女ならば、そういう事もあるかなと納得したのでした。

 

 しかし、それから数年後に意外な事実が明らかになります。ジョージの死後、再びそのレコードが話題に挙がった際、父は一瞬の逡巡の後、自ら「ああ、これは俺が買った…」と小さな声で告白したのです。

 あれだけ私の前でジョージの事を見下した発言をしていた手前、ばつが悪かったのでしょう。まして、実家には父が敬愛するジョンやポールのソロは一枚もありません。二人を差し置いてジョージのシングルを買ってしまった。その事実を、何故かジョージに心酔してしまった息子に言いたくなかったであろう事は容易に想像できます。

 心境の変化の理由は何となくわかります。私だけでなく、我が妹までジョージ探求を始めてしまったからです。子供2人に包囲されては、真実を語る以外の手段が無かったのでは無いでしょうか。

 同時に、『All Things Must Pass』期のジョージの勢いを実感させる貴重なドキュメンタリーでもあります。関心が無いどころか、アンチの立場にいた人間にまでシングルを買わせてしまう。これは只事では無いですよ。ビートルズ解散直後のジョージは、それほどの爆発的勢いがあったのでしょう。