(Revenge of the) United Minds

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Lucky (with Special Guest "Nelson")

 ジョージが参加した事をタイトルでも大々的に謳ったディランの未発表音源集『1970 with Special Guest George Harrison』が、先月3枚組にて発売。

 

1970

1970

  • アーティスト:Bob Dylan
  • 発売日: 2021/02/26
  • メディア: CD
 

rockinon.com

 この記事によれば、従来のディランの同シリーズより売れ行きは良いとの事。現にジョージ・ファンである私が買っているわけで、世界中に同様のリスナーは少なくないのだと思われます。

 

 当然私もディランは好きですが、ファンと名乗れるだけの知識はありません。そもそも、アルバムも持っているのは4~5枚だけ。本当にさわりだけしか知りません。よって、今回の音源の背景もネット上の記事でぼんやりと捉えている程度。

 昔、どこかのThe Beatles本で「本来サブテキストのはずの『Live at the BBC』や『Anthology』シリーズを、ブームだからといきなり聴いてしまう若いリスナーが多い。それではThe Beatlesの本質はわからない」と嘆いておられるライター氏がおられましたが(要は東芝EMIのプロモーションの仕方が間違っている、という論旨)、筋金入りのディラン・ファンの方からすると、私もそういった人々に分類されてしまうのかな、とも思います。若くないですが。

 ただ、まだ1回通して聴いただけですが、私のような“にわか”の耳から聴いても十分に説得力のある内容でした。完成テイクには遠いセッション集とはいえ、アルバムとして楽しめる内容です。

 

  何しろノーベル文学賞受賞者という偉大な肩書のせいで「詩人」というイメージばかりが強調されがちなディラン。学生時代にベストアルバムで「Like a Rolling Stone」に打ちのめされて以来、『Bringing it All Back Home』『Highway 61 Revisited』『Blonde on Blonde』といったロック期の作品を愛好してきた私にとっては、彼のヴォーカルやメロディ、サウンドに魅力を感じていました。彼の作品の背景にあるアメリカン・ルーツ・ミュージック、例えばカントリーやブルースをディランというフィルターを通して体感する事が好きだったのです。

 

 この作品集でも、様々なアプローチの跡が窺え、ディランの音楽的レンジの幅広さが実感出来ます。当時の時流も無関係ではないでしょうが、ゴスペルやスワンプなどブラック・ミュージックよりのものが多い。特にDisc1から3まで幾度も登場する「If Not for You」の執拗な試行錯誤の形跡はドキュメントと言ってもよく、そういった意味でもジョージ・ファンは楽しめるものとなっています。

 このセッションに参加し、更にディランとの親睦を深めたジョージ。当時の状況と言えば、最悪だった『Get Back』セッションを何とかアルバムとしてまとめたもの、さらにその記録映像を映画化した『Let it Be』両作品のリリースが控えていた頃。バンド末期の溜まりに溜まったストレスから解放され、胸躍るようにディランの傍らにいた事は想像に難くない。実際、この年の暮れにリリースした『All Things Must Pass』では、このセッションで何度も聴いたであろう「If Not for You」をカヴァー。最高のアレンジで、見事にこの曲をものにしたのでした。

 

 では、ジョージがこのセッションでどのような貢献をしたのかというと…これがかなり判断に困るところ。一応、ジョージがどの日のどの曲に参加したのかはクレジットがありますが、ジョージが参加していようがいまいが基本的にエレクトリック・ギターは同じ音色のものが1本しか聞こえなかったりするし、バッキング・ヴォーカルに関しても「うーん…多分ここの声はジョージだと思う」とい程度。つまり、全く目立っていないのです。

 The Beatles時代のような練りに練った必殺のオブリを入れたり、ワン・アンド・オンリーのスライドを決めてくれればわかりやすいのですが、前者はジャム・セッションという状況では難しく、後者はそもそもまだ習得中の段階。

 こうなると、大々的に参加が銘打たれているのに本当に演奏していたのかすら疑わしくなってきますが、そこにいた事は事実なのだと思われます。「担当:そこに存在した」というクレジットが正しいのかもしれません。ジョージ・ファンは、良くも悪くもこういう事に慣れていますね。少し悲しくもありますが…。

 

 ともあれ何より大事なのは、ジョージが親友ディランのセッションに参加し、大いに実りある時間を過ごした。その後の2人の友情や『Concert for Bangla-Desh』、Traveling Wilburysに繋がっていく立ち会いの様子を聴く事が出来る。それだけで十分でしょう。

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 …などと言いながら自分を納得させる、それも人生。いずれこのセッションから生まれた『New Morning』も入手したいと思います。勿論、ジョージの痕跡を探るためにこの作品の聴き込みも続けていくつもり。