「(Just Like)Starting Over」のアウトロに出てくる謎の呟き
ある時期、高円寺をよく訪れていた。
これといって特別な思い入れがあったわけではなかった。彼の地に向かう理由があったから、それだけの話である。
元々は我がバンドのヴォーカリストの付き合いでいくつかのバンドのライヴに行ったのが最初の記憶だ。インディー界では名の知れたバンドの演奏を何回か観たはずだが、どれも詳細な内容は忘却の彼方である。
いつかのライヴ後、演奏を終えた女性ヴォーカリストと音楽の話をした事だけは覚えているのだが…「今モンドが流行ってるらしいけど、どういうの聴けばいいかわかる?」と問われ、無知故にさしたる回答も出来なかった。そして今同じ質問をされても、同じように何も答えられないだろう…。
高円寺に通うようになるのはその数年後。これまた友人がきっかけである。私をWWEへと誘った友人が、同団体のフィギュアやアパレルを買うために行きつけにしていたのがこの街だったのだ。
彼に付き添ってこの街を訪れるうち、この街にはWWEだけでなくSWのグッズを売る店もあり(ただし、この時点ではまだ専門店であるStar Caseの存在を知らなかった)、更に駅前にはいくつか中古レコード店がある事にも気付いた。
時はちょうど自分の中のビートルズ再発見が起こっていた頃。ジョージのDark Horse時代のアルバムが全て廃盤だと知り、中古品での収集を思い立った(それまでは律儀に様々な店に注文を試みていた)のとタイミングは一緒だった。
SWやWWEのグッズに加え、私からすればレアなレコードの数々が同時に手に入る便利な街。そういった利便性の面から、高円寺という街を重宝していただけの話である。
当時ジョージのDark Horse時代のアルバムは入手困難で、CDは殆ど見かけなかったし、たまに入荷しても手が出せるような値段ではなかった。アナログ盤ですら中古市場でも必ず置いてあるという程の数は出回っておらず、そのためにはこまめにチェックする必要があった。新品でジョージのCDが容易に入手出来、中古市場にも多数出回っている現在とはその状況に大きな隔たりがある。
CDの方が欲しいのは当然だが、気軽に買えるようなものではない。それよりは安価なアナログ盤を探し、当時同居していた妹が所有していたプレーヤーからカセットなりMDにダビングして聴いていた。音質的にはクオリティを望むべくもないが、ヒスノイズと共に聞こえてくるジョージ印の歌声とギターに大いに興奮した。とてもピュアな音楽体験のひとつであり、幸せな思い出だ。あれほど心を躍らせながら音楽を聴く事が、果たして今後もあるのだろうか?
そんな体験をさせてくれた店のうち、大きな役割を果たしてくれたのがこの高円寺のRAREである。正確には覚えていないのだが、『33 ⅓』から『Gone Troppo』の4枚のアナログ盤のいくつかはここで買ったものではなかったか。
何となく8cmCDの安売りコーナーに手を置いたら、そこに偶然挟まっていたのが「Got My Mind Set on You」のCDシングルだったというミラクルも体験。お陰で格安で公式盤の「Lay His Head」を聴けるという幸運にも与る事が出来ました。短冊ジャケットの状態が悪いので、それほど聴いてはいませんが。
— ミカ・ラウド (@MicaLaud) 2019年2月24日
少なくとも、このラッキーな遭遇を果たしたのは間違いなくこの店だ。
そんなRARE高円寺店が、この度長い歴史に幕を下ろすという。
レア高円寺店 閉店のお知らせ 1
— レア高円寺店 中古レコード専門店 (@rarekouenji) 2019年2月15日
2019年4月末をもちまして高円寺店は40年以上の歴史に幕を閉じます。
長きに渡って当店をお引き立て頂きましたお客様には 心よりの感謝と、
力及ばず閉店と成りましたことをお詫びいたします。 pic.twitter.com/FcAi8vLr8O
ジョージのDark Horseボックスが発売され、WWEの地上波放送が打ち切られてからはこの街に通う意義が希薄なものとなってしまった。それ以上に自身が多忙となり、世界も広がったせいで、高円寺を訪れる理由はStar Case以外に見出しにくくなったのである(ちなみに、『People vs. George Lucas』をレイトショーで観に行ったのはここの店長氏が薦めてくれたから。感謝)。
そんな不義理を重ね続けた私だからこそ、最後の姿を目に焼き付けたいと思った。
当時の独り高円寺巡りの定番コースは、フィギュア店を2軒巡回→RAREをチェック→隣の元祖仲屋むげん堂(インド雑貨店)を冷やかす→牛丼太郎で納豆丼を食って次の目的地へ、というものだった。既にフィギュア店がどちらも閉じた事は確認済みだし、牛丼太郎は閉店どころか会社が無くなってしまった。ここから更にRAREが消えるわけである。あの時代の自分を育んでくれたこの街に敬意を示し、数年ぶりに高円寺へと降り立つ事を決定。十数年ぶりの入店を果たす事となる。
Star Caseのために来訪した際もこちらは訪れないので本当に久し振りだが、この店を含むガード下は殆ど変わっていない。何だかホッとした。
閉店半額セールが開始されてから数日経過しているからだろうか、特にこれといった掘り出し物はない。前述の記憶から、記念として何か所有していないジョージのアナログ盤を買おうと思っていたのだが、あったのは「美しき人生」(「What is Life」日本盤)のみ。それどころか、The Beatlesのソロはジョンとポールだけでジョージのコーナー自体が消えていた。当時は設置されていた記憶があるのだが…何とも寂しい限り。
この日購入したもの。
何とかジョージ絡みのものを、という事で彼の参加作品であるDaryl Hall and John Oates『Along the Red Ledge』を買った。当時貪るように読み耽ったジョージのデータ本の数々に、必ずジャケットが掲載されていたアルバムだ。かなりの妥協ではあるが、一応は関連作品であるという事で自分を納得させる。
MadnessとThe Good-Byeのアナログシングルが収穫といえば収穫だろうか。私がこの店に通っている頃は、Madnessはまだ本格的に追い掛けていなかったし、The Good-Byeに至っては存在すら知らなかった。
今の私はレコード盤を再生するプレーヤーがないし、金銭的・収納的な問題を考えてもアナログを購入しようという意欲は極めて低い。コレクター的な欲が無いのも、以前このブログに書いた通り。
だが、The Good-Byeやジョージのアナログシングルは今後中古レコード店に入る機会があればチェックくらいはしてみようと思う。
というわけでインナーの写真も初めて見ました。衛藤氏が美少年。思えば、The Good-Byeは「基本的にB面はアルバムに収録しない」というビートルズ流儀を最初から最後まで貫いたバンドですね。例外は「摩訶Who See議」のB面シングルカットくらいだけど、これも完全別バージョン。 pic.twitter.com/8zTvspCU4R
— ミカ・ラウド (@MicaLaud) 2019年3月5日
店主の方と言葉を交わす事もなく先を急いでしまったが、こうして記念として心に残る買い物が出来た事は良かった。今まで本当にありがとうございました。
帰り道、中野までの徒歩行で通りかかったフィギュア店の跡。
どちらも2階にあったテナントだったが、当然現存はしていない。左に至っては建物自体が放置されている感じで悲しみを誘う。ちなみに、牛丼太郎高円寺店は日高屋に変わっていた(私の記憶が間違っていなければ)。
この日は寄らなかったが、私の高円寺巡り定番コースの唯一の生き残り、元祖仲屋むげん堂はインド歌謡を流しながら元気に営業中。用事を見つけたので、今年中に再訪したいと思っている。