(Revenge of the) United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

Some Holocron Vol.7

 毎度、購入から感想執筆までが遅れるSW書評。

 昨年秋に入手した本を、この度ようやく読了した。

 

 

 

 

ジェダイの遺産』

 

Contents

 

粗筋

 ヤヴィン第4衛星を本拠とする反乱同盟軍上層部改め、SPIN(議会惑星情報網)。その会議の場に、最近はいつも遅れて出席するルーク。彼には、捜索せねばならぬ場所があったのだ。
 夢枕に立ったオビワン・ケノービが告げた、「ジェダイの失われた都」への入り口。フォースの導きのままスピーダーを走らせるルークは、ヤヴィンに古代住んでいた部族であるマサーシの小さな寺院前で、2人の風変わりな人物と出逢う。
 1人は、3mはあろうかという異星人バージ。森の妖精のような彼は、薬草の知識に長け、植物と共に生きる治療師(ヒーラー)だ。
 もう片方は、まだローティーンの少年ケン。彼こそが、失われしジェダイの都で大勢のドロイド達と暮らしてきた唯一の人間であり、そしてジェダイの王子であったのだ。
 一方、帝国に大きな影響力を持つダークサイドの最高位予言者カダーンは、次代皇帝の座を狙うトライオクユーラスにこう告げる。
 帝国の正統な後継者として認められたくば、ジェダイの王子を探し出して殺せ。
 未だ新皇帝として帝国幹部達の信頼を得られないトライオクユーラスは、憎きルーク・スカイウォーカーから情報を聞き出そうと考えた。
 そして、電撃的に行われたSPIN本部への攻撃、及び惑星への侵攻。ヤヴィン第4衛星の豊かな雨林はたちまち火の海と化し、貴重な自然が失われていく。
 ルークは、レイアは、ハンはいかにしてこの危機に立ち向かうのだろうか。

 

作品概要

 前回・前々回も紹介した自動向け小説シリーズ『ジェダイの王子』シリーズ3部作、その真ん中である第2作がこの『ジェダイの遺産』である。
 原題は『The Lost City of the Jedi』、つまり「ジェダイの失われし都市」。この話のメインの話題を、そのままタイトルにしている。この直訳でもよかったように思うが、そう主題とかけ離れたタイトルでもないので問題はないだろう。

micalaud.hatenablog.com 『帝国の復活』に『ジェダイの遺産』と、トリロジー(EP4~6)の邦題に似せるように出版社から指示があったのかもしれない。3作目の『ゾルバの復讐』も、それに寄せようとする努力は感じる。

 そのゾルバの復讐』にて感じた、「同じ惑星に帝国と反乱同盟が同居している理由がわからない」問題。

micalaud.hatenablog.com

 ランド・カルリジアンが統治する惑星べスピンにハンが自宅を製作する描写が冒頭にあり、謎は解けた。彼の地に反乱同盟が基地を設置したわけではなく、ハンが個人的に住もうとしているだけなのだろう。恐らく帝国は帝国で、この地に軍事工場を持っているだけなのだ。以上は私の推測であり、作中に具体的な説明があるわけではない。
 だとすると、エンドアの戦役において反乱同盟宇宙軍を統率したランドが統治し、同じく地上軍を率いたハンが呑気にレイアと新婚生活を始めようとしている現状を、何故帝国は手をこまねいて見ているだけなのか。未だにこの理由はわからない。全くそれらしい注釈もなかったので、詳しい方は是非コメントをお願いしたい。

 

児童向け小説ならではのストーリー

 このように所々に説明不足の描写が多く、突然何の前触れもなく新たなシーンに移る事も多々ある。急展開が多発するのでエピソードとエピソードがぶつ切りの印象があり、良く言えばダイナミック、悪く言えば唐突な展開。
 この傾向は『ジェダイの王子』3部作に共通しているが、特にこの『ジェダイの遺産』に顕著だと感じた。お陰で、「あれ? 何で突然こんな事になった?」とページを遡ったのは1度や2度ではない。
 これは、児童向け小説だからなのかもしれない。細かい話の齟齬は意に介さず、とにかく勢いで最後まで突っ走る。その疾走感で有無を言わさず最後まで少年達に読ませるのが主題であり、『ブラック・エンジェルズ』(作者は葛飾区在住)の松田の台詞を借りれば「細けぇことはいいんだよ!」という事だろう。
 前述通り首を捻る回数も多かったが、とにかく読みやすかったのは事実だ。あっという間に消化し、このようにすぐさま感想が書ける。

micalaud.hatenablog.com

 挿し絵も殆どなかった『帝国の後継者』は、さすがにもっと時間がかかった。

 ちなみに、今回私が購入した本には、多くの子供達が手にしたであろう事を物語る痕跡が残っている。

 

 北海道から遥々私の部屋にやってきた本書。どのような経緯を辿ってきたのか、それを考えるのも楽しい。

 

時代を問わない裏テーマ

 前作に引き続き、お伽噺度の高い内容だと感じた。それは児童向けだからこそそうしているのだろうが、時代背景も無視出来ないと思う。
 自然との共生、特に反捕鯨がテーマにあったように思えた前作『帝国の復活』。今回は、現代でも重要な課題として継続している自然破壊、森林伐採への警鐘だろう。SDGsが謳われる現代、未だにこの作品のメッセージ性は色褪せず有効だと思われる。
 私が義務教育を受けていた時代、「金持ちで飽食の日本人が割り箸を多く生産するせいで、世界の森が伐採され自然が破壊されている」とよく聞かされたものだった。そう考えると、今作のテーマも我々日本人に向けられたものだったのでは、とついつい邪推したくなる。
 割り箸は基本的に国産、そもそも割り箸は自然に貢献している、といった論もある。それに関しては詳しい方々に語って頂くとして、ともかく「自然破壊はいけないよ」という主題は揺るがない。
 特にお伽噺的だと感じたのは、以下の3点である。
・バージの存在
 森の妖精のような大男、バージ。後のプリクエル(EP1~3)に登場するジェダイ・マスター、キット・フィストーを彷彿とさせる見た目だ。その台詞は詩のように歌われているらしく、表記の仕方も他の登場人物とは違う。文頭に必ず2~3文字分スペースを空け、歌詞のように表示されている。

(左からチップ、ケン、ルーク、バージ)
 ヒーラーを名乗ったり、多くの薬草に精通していたり、SWというより古いファンタジー世界(平たく言ってしまえばRPGのような世界観)の住人のようだ。既存人物がルークしか出てこないパートは、当世風に『異世界転生したジェダイ騎士だけど失われたテクノロジーを使って世界救ってみた』とでも名付けたくなる。
・帝国を裏から操る予言者達の集団
 これも、お伽噺というよりはファンタジー的設定か。飛び抜けた政治力で、あくまで合法的に帝国の皇帝に登り詰めたパルパティーンが、こんな怪しげな集団の言う事に耳を貸すとは到底思えないのだが…さすがにルーカスの意図をあまりに逸脱しすぎである。ここに関しては、続編を名乗るシークエル(EP7~9)と同レベルだ。
 しかも、予言を実現させるためには“実力行使”も厭わないらしい。影響力を保つためであるが、大変間抜けな話だ。希代の指揮官であるスローン大提督を擁するとはいえ、帝国の破滅は早晩避けられないだろう…。
・今作でも哀れなトライオクユーラス
 自らヤヴィン第4衛星の森林焼却を指示した新皇帝僭称者・トライオクユーラスだが、皇帝の証として身に付けていたダース・ヴェイダーの手袋の作用で視力を失ってしまう。完全に呪いのアイテムと化したヴェイダーの遺品。その持ち主であったアナキンも、こんな扱いをされては大変不本意だろう。
 慌てふためき、ヒーラーのバージを捕らえて治療を命じるが、その目に光を取り戻すために必要な「キーボの種」は絶滅に瀕した植物。完全に回復させるためにはかなりの量が必要であり、それは今まさに焼き払われようとしているバージの小屋にあった。
 ヒステリックに森林焼却の中止を命じ、炎の中へと飛び込んでいくトライオクユーラス。だが、職務に忠実な部下達にその声は届かず…お陰で、彼の顔は醜く焼けただれてしまい、視力の問題も解決しませんでしたとさ、おしまい。
 …という、私利私欲のために自然破壊を命じた者が、自らの愚行により絶望の縁へと追い込まれるオチ。欧州の童話というより、残酷な教訓に満ちた日本の昔話に近い。思わず、常田富士夫と市原悦子のナレーションで聞きたくなる話だ。
 彼のあからさまに愚鈍な悪役ぶり、因果応報ぶりは読者の児童達にも大変わかりやすく伝わっただろう。これぞ、宇宙を舞台にしたお伽噺である。

 

お待ちかね、SWオタクとしての楽しみ方

 上記の3点だけでもSWのセオリーをかなり逸脱していると感じるが、他にもツッコミ所が多数ある。ネット検索では「スピンオフの中でも特に黒歴史扱いされている」という記述を見つけたが、確かに作者の独自解釈がかなり目立つ。
 真面目なSWファンは怒ってしまうのだろうが、これはあくまでスピンオフである。どこかの映画シリーズのように、正史を謳ってつまらぬものを世に出しているわけではない。今後再びスポットを当てられる事も考えにくく、だからこそ好事家としては嬉しくなってしまう。
 「いやいや、さすがにそれはねぇよ」と独りごちてニヤつきながら読んでしまうスピンオフ小説。それも愉しいではないか。

ジェダイの失われし都
 ジェダイはヤヴィン第4衛星の地下に、そのテクノロジーを活かした都市を作っていた。帝国に見つからないように知識を集めたジェダイ図書館、惑星の気象すらコントロールするシステムなど、来るべき復活の時に向け王子であるケンを育てていたのだ。
 当然ながら、ジェダイという存在に対する完全な解釈違いの設定。だが、あれだけ隆盛を誇ったジェダイヨーダとオビワン(とアナキン)だけになってしまったというトリロジーの設定だけでは、スピンオフ作家がここまで想像を逞しくするのも無理はない。
 ジェダイの王子・ケンは、退屈な“失われし都”での生活から、外の世界に飛び出す日を夢見ていた。勿論、彼の設定はルークを踏襲しているのだろう。
 現在の正史によれば、帝国による粛清(オーダー66)を逃れたジェダイの生き残りは、彼のように安全な地下生活を送ったわけではない。アソーカ・タノ、ケイナン・ジャラス、カル・ケスティスなど、人格そのものが変わってしまうほどに過酷な日々を生き抜いた者しかいないのだ。ヨーダやオビワンのような隠遁生活を送れた者のほうがレアケースなのである。

・夢を介してルークを導くオビワン
 霊体になったからこそ出来た事なのだろうが、後に重要な物語の鍵となるジェダイの予知夢を彷彿とさせる。EP3にて、アナキンの破滅のきっかけとなった事でもお馴染みだ。

 しかし、オビワンがルークに「よく憶えておきなさい」というコードが何やら笑える。「JE-99-DI-88-FOR-00-CE」、「ジェダイ・フォース」とは…SWファンが使うパスワード程度の内容で脱力。若年層である読者への分かりやすさを重要視したのだろう。

スノーク・ロローン
 作品中、ハンよりも優秀だったコレリア(コレル)人パイロットとして名が挙がった者。エンドアの戦いで散ったらしい。
 どこかで聞き覚えがある名前だと思ったが、一応正史の続編とされているEP7・8にそのような者がいた気がする。もしかしたら名前を参考にしたのかもしれないが、興味が湧かないので特に調べる気はない。

・レイアに惚れたトライオクユーラス
 SPIN本部を襲撃した際も「レイアだけは助けろ」と指示したり、彼女を皇后に迎える夢すら見るトライオクユーラス。それは夢というより、単なる妄想なのでは。さすがにレイアも作品のメインヒロインだけある。

・プリクエル制作について
 以下、巻末の解説より引用。

 三部作が三ブロック集まって、さらに壮大な物語を形成する━━このような構想は、映画界始まって以来のものでした。二〇〇一年までに、全九作を完結させるという噂もありましたが、一九八三年の『ジェダイの復讐』以降、なかなか再開されなかったこの計画は、ようやく始動し始めたようです。ジョージ・ルーカスは、ここ五~七年以内に<スター・ウォーズ>の新作映画を製作する、といろいろなインタビューで明言しているのです。

 今作の初版は1992年12月刊行。プリクエル第1作である『Episode 1 The Phantom Menace』公開が約6年半後の1999年5月(日本では7月)。まさにこの解説文通りとなった。
 当時、映画好きの友人と顔を合わせる度に「SWは今後ダース・ヴェイダーの若い頃を描いた続編を制作するらしい」と聞かされていただけに、噂としては何年も語られていた事なのだろう。当時はその兆候すら見られない事が不満だったが、ルーカスは有言実行だった事が今になってわかる。
 ルーカスは『ジュラシック・パーク』のCGを見て続編制作にゴーサインを出した、というのが定説だが、同作は1993年公開。だが、特撮を担当したのがルーカス自身の会社であるILMだった。当然ながら、制作段階からCGの完成度をチェックしていたはず。そういう意味でも、今作(『ジェダイの遺産』)解説文の内容に齟齬はない。
 初版発行から30年後にこうして答え合わせが出来た事は、なかなか感慨深いものがある。

 

 

 次は、近々刊行されるコミックを読んでみたい。

 どちらも注目作であり、非常に楽しみだ。