(Revenge of the) United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

I have a good feeling about this!

 昨年12月にEP8が公開されてから約5ヶ月という短いスパンで、USAにてSWサーガのスピンオフ映画が公開された。それが『ハン・ソロ』(『Solo: A Star Wars Story』)である。

 約1ヶ月遅れで日本公開を迎えたわけだが、本国では興行成績が振るわないというニュースがその間に入ってきていた。人がどう思おうと、自分が観て判断したものがその作品の評価になる。私はその手の評判を気に留めなかったが、いかんせんEP8によって負った深い心の傷が癒えるには至っておらず、そういう意味ではSWに対する疲れのようなものがあったのは事実。 しばらく、このサーガについて考える事を煩わしく感じる事が多かったのだ。 

 

 だが、作品自体に不安は持っていなかった。『ローグワン』を例に出すまでもなく、原作の世界観を元にしたスピンオフならば、概ね楽しめるものに仕上がっているだろう。そういう意味では、今まで以上に肩肘張らず、気楽に日本公開の封切り当日に鑑賞してきた。

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 以下は、ネタバレしか含まない個人的な感想である。

 

 

 

 

 ワルで、組織に属するのを嫌がる反逆者。気障で荒くれ者だけど友情には篤い。EP4公開時、多くの人を魅了したキャラクター、ハン・ソロ。そんな人気キャラだけあって、正史(カノン)・非正史(レジェンド)の両方の世界観で、彼を主人公とした様々なスピンオフ・ストーリーが作られてきた。
 今まで伝説のように語られてきた彼の前史としては、次のようなものがある。

①コレリアン・コルヴェットなどの造船で有名なコレリア生まれ
元帝国アカデミー所属のエリート・パイロット
③捕らわれたチューバッカを助けた事により、帝国軍を追われる。だが、それがきっかけでチューイはハンに永遠の忠誠を誓う
④ランドとの腐れ縁。彼と様々な危機を乗り越え、サバック勝負に勝利した事によってミレニアム・ファルコンを手に入れる

 これらはかつての劇中で語られているものもあるし、SWの入門書程度にも載っている設定である。「オビワンとアナキンは火山で決闘し、破れたアナキンはその身を焼かれダース・ヴェイダーになる」という逸話と同じくらい、遙か昔からファンの間で語られてきた設定であった。

 

 ディストピア映画のような、人々が暗く機械化された工業都市のスラムで蠢くコレリアの風景。恋人のキーラと離ればなれとなり、銀河一のパイロットとなり彼女を取り戻す事を誓う若きハン。夢も希望も無い生まれ故郷を抜け出し、ハンが広大な宇宙へと飛び出す。物語はそんな場面からスタートする。
 EP8に顕著な「ルーカスの世界観の徹底破壊」がまだ記憶に新しい中、また過去の設定を否定して新要素を盛り込むのだろうか。冒頭からしばらくそんな事を考えていたが、それは全くの杞憂に終わった。

 

 多くのSWファンが知っている、古くからの設定をしっかり踏まえている。しかしただそれをそっくりそのままなぞるのではなく、新たな解釈を加えて映像化する。そういった演出方法に、とても新鮮な印象があった。
 コレリアの風景、チューイとの邂逅や共闘、帝国軍属時代の厳しい実戦経験、ランドとの出逢い方。どれも、私が想像していた、もしくは非正史スピンオフ等で親しんでいた光景とはまるで違っていた。
 それと同時に、結果的には歴史を壊す事なく設定通りの話になっている。なるほど、上手く考えたものだ。こういう形の裏切り方ならば大歓迎である。

 

 稀少燃料でありながら、ハイパースペース航行には書かせないコアクシウム。高価なこの品を巡り、騙し騙され、無慈悲にブラスターが火を吹き合う。ハンは危険な強奪作戦に二度も駆り出され、幾度も死線を潜り抜ける。
 この作品は今までのSWにはなかった、宇宙ギャングアクションムービーという捉え方も出来る。そういう意味では既存のSWストーリーとはかなり毛色の違う作品だし、逆にこれくらい新鮮なものを見せてくれないとスピンオフは楽しくない。
 『グッドフェローズ』や『カジノ』を愛し、私に紹介してくれた友人は、「この作品はSWの中で最も面白い作品だった」と鑑賞後に語っていたが、そういう意見も面白いし、私は否定する気は全くない。

 

 「ハリソン・フォードに似ていない」と評判のアルデン・エーレンライクだが、特に私は違和感を抱かなかった。確かにハリソンのニヒルさ、皮肉っぽさには欠ける気もするが、この時代のハンは暗い地下から銀河に飛び出したばかりの若者なのである。まだ残る青さを感じさせるにはちょうど良いキャストだったのではないか。

 前述の友人曰く「レイ・リオッタハリソン・フォードを2:1で割ったような」見た目が、ギャング映画要素を強めていたようにも思う。実際、映画の宣伝ポスターの若きハンはレイ・リオッタに似ている。

 ちなみに、ついさっきまで俳優の姓をこの選手のそれと完全に混同していた事を正直に告白しておく。

 通りで検索してもヒットしないわけだ。

 

 『ローグワン』同様、EP4に繋がるポイントをいくつも提示し、ハンとチューイが旅立つところで映画は終わる。『ローグワン』ほどEP4の直前で話が終わるわけではないが、原点である作品への橋渡しを行おうという意図は確かに感じたし、若干ぶっきらぼうに旧3部作への伏線を張っているのも、この作品らしいと感じた。
 1回目の鑑賞では「良く出来た映画だけど、多少盛り上がりに欠けるかな」と思っていたのだが、『ローグワン』のような爆発的な感情の高ぶりが脳内に残っていたせいなのかもしれない。2回目の鑑賞ではじっくりと映画と向き合う事が出来たし、とても楽しめた。意外にも、私にとってはスルメ映画である。

 

 印象的な初登場キャラクターとしては、まずトバイアス・ペケットが挙げられる。結果的に、ハンの裏稼業の師匠的存在となった老いたガンマン。そう、この作品は西部劇オマージュも多数で、ハンのカウボーイ的要素(言うまでもなく、ルーカスの過去の名作に対する多大な愛とリスペクトの表れ)がどのように形成されていったかも描かれているのは見逃せない。
 ランドに「オーラ・シングを殺した」とさりげなく言われていたペケットだが、この事実だけで彼が相当な実力者である事がわかる。

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 オーラ・シング。EP1のポッドレースの場面で1カットだけ登場した彼女は、主に『クローンウォーズ』にて大暴れした伝説的な賞金稼ぎだ。あのアナキンやアソーカをも悩ませる強さ、ジャンゴ・フェット亡き後にボバの親代わりとなった…それだけでも、彼女の格が理解出来ると思う。
 そうなると、ペケットの強さも半端ではない。本人は「押しただけだ」と嘯いていたが、どのようなストーリーがあったのだろうか。『反乱者たち』等で映像化される事を望む。

 

 ハンの恋人、キーラも美しかった。彼女は犯罪シンジケートであるクリムゾン・ドーンの首領、ドライデン・ヴォスの片腕としてハンと再会を果たすのだが、その間には壮絶な歴史があった事を暗示している。
 ハンを愛しているが故に、別々の道を歩むキーラ。そんな悲恋の物語でもある今作だが、彼女はハンが想像するよりも遙かに組織に染まっており、再会した時点でその未来は分かたれていた。

 それが、この映画の最もサプライズだったシーン、ダース・モールとの交信で明らかになる。EP1以後、『クローンウォーズ』『反乱者たち』としぶとく生き永らえ、オビワンへの復讐だけを求めてきたモール。まさかここで登場するとは思わず、思わず声を上げそうになった。
 だが、こういったスピンオフのアニメーションを知らない人達にとっては、大いなる混乱の種となったようだ。「何故オビワンに殺されたモールが登場するのだ? 時代設定がおかしくないか?」といった意見をツイッターにて散見したが、そう困惑するのも理解は出来る。ここは、この映画の失敗点として語られていくのであろう(一応、下半身が機械化した事を画面から窺い知る事は出来るのだが…)。
 何度も指摘してきたが、ディズニー買収後のSWは執拗にプリクウェル(新3部作)の要素を排除してきた。グッズもろくに作られない徹底ぶりだったが、昨今は何故かモールのグッズだけが例外的に増えている。
 これは『ハン・ソロ』に登場したから、という事もあるのだろうが、「例外的にモールだけは推していくよ」というディズニーの姿勢ありきのグッズ増加、そして登場だったのではないか、と邪推している。

 

 ランドとハンの再会時の仕草、賞金稼ぎ達の名の中に出てきたボスク(EP5に登場)、「ケッセルランを12パーセクで飛んだ」というハンの初登場時の台詞の真相…昔からのファンがニヤリとする小ネタも多数だが、最も感動的なのは破壊されたランドのパートナーであったドロイド、L3がファルコンの中枢コンピューターと一体化するシーンではないだろうか。
 ランドを密かに想い、ドロイド達に自由と自立を呼びかけた彼女が、文字通りファルコンの守り神となる。この事実が、EP5にて3POが発した「この船のコンピューターがどこで会話を学んだのか知りませんが、酷い訛りです」という何気ない台詞に繋がっているのだ。個人的には、ハンとチューイが揃ってファルコンのコックピットに座る所より感動した。

 

 『ローグワン』のような悲愴さがないぶん、アクション満載のジェットコースタームービーとして扱われるかもしれないが、過去作品へのリスペクトに満ちたじっくり楽しめる作品である。それが、私が『ハン・ソロ』に抱いた感想だ。