(Revenge of the) United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

PARCO Sky

 パルコ千葉店が、今月いっぱいで閉店。

 ツイートした通り、かなり昔から頻繁に訪れていたわりには、これといって語るような思い出がありません。それは、以前千葉市の思い出を語った記事でもパルコに触れていない事からもわかります。

blog.goo.ne.jp

 

 とはいえ、自分にとっては“そこにあって当たり前”だった場所。それがなくなるのはとても寂しい事です。

 千葉パルコは、むしろここ10年くらいの思い出の方が濃く残っています。ジェフの試合の帰りに寄る事が殆どで、そうなると当然ながら敗戦の後で疲れ切っている事の方が圧倒的に多くなる。そんな中で館内を見て回るのだから、いつも心が重かった印象があります。しかしこれはパルコには何の責任も無く、あくまで私自身の問題ですが。

 近年ジェフの試合絡み以外で寄ったのは、震災直後に親族の葬儀で房総半島に向かう際、時間潰しのために寄った時が数少ない機会でした。いつ余震があるかわからない中、神経を尖らせながらタワーレコードを訪れたのです。

 関係ありませんが、秋葉原・新宿・池袋の店舗に次ぐくらい千葉パルコのタワレコは訪れる機会が多かったように思います。去年何か新譜を買った記憶がありますが、それが最後の買い物となりました。

 ここの島村楽器も当然ながらよく利用していたのですが、結局大きな買い物はせず仕舞でした。

 千葉市島村楽器で始めてのギターを入手した顛末は、既にこのブログでも書いています。

micalaud.hatenablog.com

 文中に「(現在でも営業中の)」という一節があるのが、何やら切ない。パルコの島村楽器での買い物で覚えているのは、SWのストームトルーパー柄のギターストラップくらい。なかなか良い一品だが、長さの調節があまり出来ず、殆ど使わずに眠ったままである。

 

 パルコや三越の閉店とも絡めて、千葉市の空洞化がニュースになっている模様。

mainichi.jp

 地元だけでなく千葉市でさえも、徐々に街が衰え人が姿を消していく。自分があの頃のままであってほしいと願おうが、現実がその声を聞いてくれるわけではない。諸行無常、ただ受け入れて生きていくのみです。今までありがとう、パルコ千葉店。

愛の六弦展覧会 Vol.2

 太古の記憶。

blog.goo.ne.jp

 「Vol.1」と題しておきながらその後一切このタイトルで記事を書いていなかったので、10年越しに次の記事を書いてみる。

 しかし10年か…そんなに時間が経っているとはとても思えないな…。

 

 先日、親が友人からギターを2本もらってきた。当初は固辞したらしいが、「このままだと捨てるだけだから」と言い渡されたらしく、根負けして引き取ってきたとか。

 私に「両方とも持って行ってくれ」と言っていたのだが、もう我が部屋にはギターを置くスペースは無い。近しい人なら、私がギターを減らそうと試みていた事を知っているだろう。せっかく1本を人に譲渡したのに、この期に及んで2本も増やすわけにはいかないのだ。

 

 2本のうちの片方は、あまり聞いた事の無いブランドだった。

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 尖ったカッタウェイが印象的で、HSHというPU配置もレイト80's~アーリー90'sな香り。

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 ヘッドをよく見ると、「KAWAI」「SCHALLER」という見慣れたメーカー名が。このヘッドロゴの通り、河合楽器がシャーラーと協力して販売していたギターブランドらしい。

 検索してみると、これは1990年のRockoonカタログに載っているRA-65というモデルだとか(有志の方に感謝)。この時期の多PUモデルによくあったコイルタップ機能も搭載しているようだ。値段(6万円台)を考えるとスチューデント・モデルの範疇だろうが、この価格で本当にシャーラーのパーツを使っているかどうかはわからない。一応、カタログによればネックはシャーラー製らしいが。

 

 1990年といえば、私は秋頃から年末にかけて希望楽器をシンセサイザー(当然ながら小室哲哉YAMAHA EOS B-200)からギターに変更しだした頃。千葉の島村楽器にカタログがあれば絶対に見ているはずなのだが、本当に今の今までこのブランドの事は知らなかった。それだけYAMAHA信仰が強かったのか、それとも田舎のガキの目にも留まるようなプロモーションを河合楽器が出来ていなかったのか…。

 いずれにせよ、ギター関連雑誌でもこのRockoonが取り上げられていた記憶がない。あれだけ熱心に読み込んでいたのだから、いくら何でも私の記憶力や注意力だけに原因を求めるのは少々無理がある気がする。例えば、もうちょっと有名なギタリストなりベーシストなりのシグネーチャモデルを製作していれば知名度も違ったのだろうが。

 全然関係ないけど、仙波清彦在籍時のT-Square(当時はThe Square)のアルバムにも『Rockoon』というタイトルがありましたね。T-Squareについてもそのうち語ろうかな…正直、当時聴いていた他の音楽に比べると、現在は殆ど思い入れがないのだけれど…。

 

 閑話休題。このギター、そこの家の娘さんが元々弾いていたものらしい。状態が非常に良いので、殆ど弾かずに放置されていたと思われる。女子が使用するギターらしくショートスケールなので、「短いし、なかなか弾きやすいんじゃない?家でパッと手に取って弾くには良いと思うよ」と楽器屋時代以来のスキルを発動。このギターに関しては実家に置いておく事に成功した。

一週間に八日来い

 既に結構時間が経ってますが、観て来ましたよ。

thebeatles-eightdaysaweek.jp

 

 船橋ららぽーとで1回、渋谷Bunkamura(アンコール放映)で1回、と計2回観てます。それぞれに若者から女子、中高年男性、はたまた海外の方と様々な客層が来場していて(ジョージの『Living in the Material World』の時と同様に)、そういった人々と一緒に観ているという事実だけでもなかなか楽しい出来事でした。

 

 狂騒のツアーリング・イヤーズ。基本的には多くのビートルマニアなら知っている事実を検証してくという流れですが、当然ながら新たな映像、そして『Anthology』などと違ってビートル関係者以外の証言も挟む事で、当時の社会背景や少年少女達が抱いていた想い、そしていかにThe Beatlesが時代に果敢に切り込んでいったか。そして世界を動かそうとしたか。若々しいFab4の雄姿と相まって、60年代前半から中盤を活き活きとしたタッチで切り取っているというのが一番の感想です。

 シガニー・ウィーバーの乙女な発言、ウーピー・ゴールドバーグの変わりつつある時代に対する高揚感、エルヴィス・コステロのリアルな音楽ファンとしての率直な言葉の数々。実に効果的な挟み方だったと思います。

 

 映画そのものの内容も勿論見所だらけですが、今回の最大の意義は「The Beatlesのライヴバンドとしての魅力」をありのままに引き出した点でしょう。ハードなハンブルク時代を乗り越えたが故の演奏能力、今まで言葉では語られていましたが、それはこの映画で誰もが実感できるのではないでしょうか。当時のステージ上の劣悪な音響に対するリンゴの新たな発言も、彼らの実力を裏付ける一因となっています。

 そして最新技術でリストアされ、美しくなった映像。リマスターやリミックスで観客のジェットノイズに埋もれない鮮明な音。冒頭の「She Loves You」の美麗な映像と音、あのビートルズ・ライヴ疑似体験っぷりは凄かったです。あれは映画館のスクリーンと音響で観たからこそでしょう。個人的に、60年代にタイムスリップした…という感慨でなく、「Fab4があの当時の姿で2016年にやってきて、グラストンベリーなりサマーソニックなりで演奏したらこんな感じなのではないか」という感慨を持って観ていました。本当に、ここのシーンだけでも映画館で観るべき。

 

 殆ど休みなくツアーで世界各国をめぐり、僅かな時間でレコーディングをする。そのタフさもしっかり取り上げられていました。そしてひとつの到達点となるシェイ・スタジアムでの歴史的公演。そこから徐々に不穏な空気が流れ始め、彼らを取り巻く状況が狂気を孕んでいく。この辺の逸話は、わざわざここに書くまでも無いでしょう。しかし、最終公演だったキャンドル・スティック・パークでのライヴ終了後のエピソードは初めて聞いた話で、それはジョンやジョージが怒るのも無理はないだろう…という酷い扱い。

 殆どのビートルマニアは、いわゆる“ツアーリング・イヤーズ”がどのようにして終焉したかを知っており、ハッピーエンドにならない事は重々承知しているはず。だが、ツアー終了後に口髭をたくわえて現れた4人の姿に、新たなストーリーの始まりを感じる人も多いでしょう。ルーフトップ・セッションで終わる点も含め、4人が疲れ果てたまま映画が終わらなかったのはとても良い点だったと思います。

 結果として、我々はFab4がそれぞれの個性をThe Beatlesの枠に収め切れず、喧嘩別れのような形で解散した事を知っている。それでも、過酷なツアーの日々を乗り切る事が出来たのは、4人の固い結束、そして何よりも学生時代からの仲の良い友人だったという事実が何よりも大きかった。それを改めて実感。

 

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 個人的には、ライヴの音の迫力。この映画はそれに尽きます。これは映画館で観たからこその感想でしょう。ちなみに、本編終了後にこれまた最新リマスターのシェイ・スタジアム公演記録映像を観る事も出来るので、出来る限り億劫がらずに映画館で観るべきだと思われます。一応、この映像は映画館のみの上映という事なので…DVD/BD特典映像なり、他の機会でのリリースなりでソフト化されそうなので、あんまり私はこの言葉を信用していませんが。

 

 今回初めて観た映像の中で一番感動したのは、アンフィールドでKopのリヴァプール・サポーター達が「She Loves You」を大合唱するシーン。その凄まじい大音響に痺れました。当たり前ですが、この時代の客席は男しかいませんね。しかし若き野郎共だけでなく、年配の男性も一緒になって歌っているのが印象的。やはり、地元が世界に誇るヒーローのヒット曲だからという事なのでしょうか。フットボール(この場合サッカーと書くより圧倒的にこっちの方が正しい)と音楽、その両方ともがリヴァプールを象徴するファクターであり、世界に誇るべきもの。そんなリヴァプールっ子達の想いが伝わってくるようです。

 リヴァプール・サポーターというと、Gerry & The Pacemakers「You'll Never Walk Alone」を選手入場時に歌う事が定番になっていますが、またThe Beatlesの曲も歌ってほしいもの。

 今まで“ビートルズ”と“スポーツ”の関係性というものが殆ど我が国では語られた事がなく、たまに言及されるのも「ジョージのF1愛」「ポールがエヴァートン・サポーターのトランペットを吹く男に魅了された」「『Walls and Bridges』のジャケで幼少時のジョンが描いたサッカー選手」程度のものでしたが、フットボールというものが我が国でも徐々に市民権を得始めている昨今、このKopのシーンも年配ビートルマニアにとっても少しはリアリティを持って受け入れられるようになったのではないかと、勝手ながら思った次第。

 

 楽しい映画でした。映画館で観られて良かったです。

わたしが選ぶ名曲ベスト10 2016返

 たまにやります。理由は私がやりたいと思ったから。

 

The Jam

1 Circus

f:id:micalaud:20161114233150j:plain "The Gift"

2 But I'm Different Now

3 Smithers-Jones

4 Going Underground

5 Private Hell

6 Town Called Malice 悪意という名の街

7 Beat Surrender

8 In the City

9 The Eton Rifles

10 Absolute Beginners

 また物議を醸しそうな選曲だなぁ…でも本当に「Circus」が好きなのである。あまりにも好きすぎて、SpiSunの次回作のタイトルとして本決まりしていたくらい(明らかに気乗りしていない相棒のジョニー馬論を説得した)。それにしても、シングルばかりであまり面白みがない。

 あくまでポップ好きの相棒をおちょくっていた私だが、何だかんだ言っても一番The Style Council寄りの『The Gift』が一番好きだ。バラエティに富んでいるのがその理由。『Sound Affects』がその次。実験色を増していった後期が自分としては好みなのかも。

 

The Specials

1 Rat Race

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2 Concrete Jungle

3 Hey, Little Rich Girl

4 International Jet Set

5 Friday Night, Saturday Morning

6 I Can't Stand it

7 Gangsters

8 Do Nothing

9 Why?

10 Too Much Too Young

 ロディ・ラディエーション作品が怒涛のトップ3独占。実質的にはアルバムを2枚しか出していないので選曲は偏らざるを得ないが、それでもシングルのみのリリースなども含めるとバリエーション豊か。あくまで中心メンバーはジェリー・ダマーズなのは間違いないが、テリー・ホール(「Friday Night, Saturday Morning」)やリンヴァル・ゴールディング(「Do Nothing」「Why?」)も数は少ないが良い曲を書いている。改めて、本当に魅力的なバンドだと思う。

 もはや聖典と化した感のある名盤1stが人気だが、スカをベースに様々なチャレンジをし始め、メンバーも積極的にソングライティングに加わり始めた2ndの方が俄然面白くなってきていた。このままバンドが続いていたら、どのような進化を遂げていたのだろうか。妄想する事しか出来ないのが残念である。

 

The Good-Bye

1 浪漫幻夢 Romantic Game

f:id:micalaud:20161115000527j:plain "#6 Dream"

2 Love Again

3 Out of the Time

4 浮気なロンリー・ガール

5 僕らの祈り

6 Growing Up Days '87

7 悲しきRadio Girl

8 Good Lovin'

9 Lonely Night

10 I'm Sorry

 1位は確かにモロにELOへのオマージュだが(主に「Twilight」+「Xanadu」)、それでも良いものは良い。何度聴いても夢見心地になるメロディ、歌声、歌詞。素晴らしいポップスとはこういう曲の事を指すのだ。我ながらひねりがないなぁと思うが、この曲以外の1位は考えられない。ちなみに10曲中8曲(ただし1曲はバージョン違い)が能地裕子&本秀康両氏選曲の2枚組ベストに収録されており、改めて2人のコンピレーション作りが的確だった事を実感。

 昨年、ツイッターの「#私を構成する9枚」ハッシュタグにThe Good-Byeのベストを入れたが、彼らから学んだのは「先人へのリスペクトと愛を素直に表明しよう、そして楽しみながら良い曲を作ろう」という点であり、ナイアガラの流れから大いに影響を受けた。彼らのそういった姿勢が、この10曲に凝縮されていると思う。

 

TM Network (TMN)

1 Confession 告白

f:id:micalaud:20161115001716j:plain "Gorilla"

2 Fool on the Planet 青く揺れる惑星に立って

3 Here, There & Everywhere 冬の神話

4 Maria Club 百億の夜とクレオパトラの孤独

5 Cube

6 Pale Shelter

7 Message

8 Girl

9 Children of the New Century

10 Electric Prophet 電気じかけの預言者

 何だか地味な選曲だな…持っている全アルバムから特に好きな曲をひたすら挙げて、少しずつ削っていったらこの10曲が残った。マニアックなのを選んでやろう、音楽的に高度なのを入れてやろう…といったスケベ心がない分、最もプリミティブな選曲といえる。だが、やはりその日の気分で変わる部分が大きいので、あんまりあてにならないような気もする。

 TMはやはり小室哲哉の生み出したユニットだが、再結成後の活動において、時を重ねるごとに木根氏の存在が大きくなっているのは誰も否定出来ない所だろう。氏が書いた「Cube」は小室氏が絶賛した通り、継続的に活動していた時代のものに匹敵する名曲である。しかしこうやって見てみると、The Beatlesから頂いたと思しき曲名が多いな。3曲もある。

 TMは自分にとって原点であり、それは未来永劫揺らぐ事はない。The Beatlesと共に自分が音楽を愛するきっかけとなったミュージシャンであり、非常に大切な存在である。だがThe Beatlesと違うのは、成人後に全曲を聴き直したり、ディープに研究したりという機会がごく最近まで無かった点だ。あくまで思春期に寄り添った思い出が大きく、今回の選曲もそういった補正が影響しているのは隠しようが無い。今こうして振り返ってみると、TMNが“終了”した1994年、自分の中の少年時代が本当の意味で終わったのだと思えてならない。まさに『Childhood's End』である。逆に言うと、そこから精神的に何の成長もしていないのだが…。

 「基本的にインターネットによる通販のみの販売」という形態を採った、再結成後最初の作品『Major Turn-Round』だが、小室氏のあまりにも早い着目のせいでリリース当時はあまり良いイメージが持てなかった。だが改めて聴き直してみると、全作品中でも屈指の完成度を誇るアルバムであると実感する。ソング・ライティングの面でも小室・木根両氏が拮抗し、前者はプログレ、後者はブリティッシュ・ロックやAORという自身のルーツを下敷きにのびのびと制作しているさまが伝わってくる。TMらしいデジタル音は控えめな“趣味のアルバム”といった趣だが、だからこそ冴えわたる曲の完成度、そしてソロで経験を積んで抜群の安定感と表現力を身に着けた宇都宮氏の歌声が見事に互いを高め合っている。3曲を選曲するのも当然の結果だ。

(注:2017年に全アルバムを揃えたため、この項のみ2022年に更新)

Only a Eastern Song

 以前の職場の近くにとある料理のチェーン店があり、基本的に仕事中の食事は外食に依存していた私は、乏しいローテーションの中でこの店もよく利用していた。
 退職後もこの店を年に数回は訪れたりするのだが、私が通っていた時代とは大きな違いが存在する。それは、常に有線のビートルズ・チャンネルがBGMとして流れている事だ。
 たまに訪れる程度の客なので、この点はどちらかといえばビートルマニアとして歓迎すべき事項である。The Beatlesが食事のBGMに向いているかどうかはともかく、これだけ慣れ親しんだ音楽なのだから嫌な気持ちになるわけがない。
 だが、私はどうしても従業員の立場でものを考えてしまう傾向にある。それは自分自身の経験上やむを得ない事で、例えば自分が仕事中に絶えずThe Beatlesが流れていたら、きっと嫌になってしまうだろうからだ。
 ただでさえ同じ音楽を繰り返し聞かされたら嫌気が差すのに、それが大事なThe Beatlesの曲なのだ。日々のストレスを前にして、大切な音楽とそれにまつわる思い出が、手垢にまみれて汚されていくように感じてしまうだろう。The Beatlesを聴くのに、嫌気が差してしまう事は火を見るよりも明らかである。
 きっと、この店で働いている従業員はThe Beatlesを嫌っているに違いない。もしくは、完全に日常のひとつとして脳にインプットしないよう、音楽として認識せず完全にスルーするように馴れてしまっているに違いない。いずれにせよ、自分がその立場だったら苦悩してしまうだろう。自分は味わいたくない経験だ。

 

 何故仕事中のBGMにここまでこだわっているかというと、自分自身にそのような経験があるからである。彼の地での私の勤務中は仕事柄常にハイクオリティな音質のアルバムがいくつものモニタースピーカーから流れている状態であり、特にヘヴィ・オンエアされていたのはSteely Danであった。それはほぼ一日中止まる事なく、勤務中の私の聴覚を支配していた。
 ここでの労働は過酷で、毎日が緊張の連続であった。毎日毎日、勤務が終わる度に「何とか今日をやり過ごしたな。でも明日はどんな無理難題が襲ってくるのだろうか」と考えるような気の抜けない職場であり、それは主に私の知識不足に起因するものであった。
 もちろん、日々様々な事を学んでいったが、音響の世界はあまりにも奥が深く、基礎の基礎から学ぶにはあまりにも時間が足りなかった。技術は常に更新されるものであり、はっきりいって自分のキャパシティからすれば一から知識を習得しようとしても、焼け石に水である。

 だが、何故か私はここを長く任せられる事になったのであった。これ自体が謎であるが、どうも上司は私の上っ面の対応の良さで何とか乗り切れると思っていたらしい。事実それでかろうじて毎日をしのいでいたのは確かだが、当然私には多大なるストレスが圧し掛かっていた。数年前の入院も、結局はこの時に無理を重ねた事が原因であるのは明らかである。
 だから、そんな時期に毎日耳に入っていたSteely Dan(とDonald Fagen)を、10年近く経過した今でも冷静に聴くことが出来ない。当然ながら世界最高峰のクオリティを持った音楽であるのは重々承知しているが(だからこそ我が職場でも流れていたわけだし)、やはりあのストレス過多の日々が脳裏に蘇り、とても平静な気分ではいられなくなってしまう。これはフラッシュバックのようなものかもしれない。
 Eric Claptonのベストもよく流れていた気がするが、こちらは特に問題なく聴く事が出来る。やはり、Steely Danの流れていた回数は圧倒的に多かったのだろう。仮に、ここでThe Beatlesが毎日絶え間なく流れていたとすると…恐ろしくて想像できない。冒頭の料理店で思わず考えてしまったのは、このような経験があった事に理由があるのだ。

 

 ただし、仕事にBGMがあっても良いと思えるシチュエーションも非常に僅かながら存在する。例えば、練習スタジオに勤務していた時は、自分の好きなCDを持ち込んで職場のPCにリッピングし、それをDJ感覚でフロアに流していた。主に当時私が買ったばかりのCDをいち早く聴くという意味で選盤していたと思う。
 覚えているのはMadness, Keane, Franz Ferdinand, Maroon 5, Squeeze, Emile Simon,  Tracey Ullman, 高橋幸宏, Sadistic Mikaela Band, Moonriders, ゴスペラッツ, etc...あたりだっただろうか。近所にあったタワーレコードで買うなり取り込んで聴いていた気がする。

 だが、当然ながらこの辺の音楽を今聴くことに何の抵抗もない。繰り返し同じものばかり聴いていたわけではない上に、何よりも仕事自体が非常に楽しく、ストレスフリーだった事が最大の理由だろう。
 専門的な事を訊かれるでもなく、たまに作業をする以外は基本的に座っていられるし、電話対応もクレームや脅しめいたものは当然ながらほとんど存在しない。はっきりいって楽な仕事である。
 土地的にプロアマ問わず様々なミュージシャンが利用する場所だった事もあり、そういう人たちと話をするのは何より楽しかった。そんなバンドマン達に「今流れてるこの曲何ですか?」と訊かれる事も稀にあり、そういう時は妙に誇らしく、快感すら覚えたものだ。

 

 だが、こんな経験自体が異例である事は言うまでもない。基本的に仕事というものはストレスしか生まないものだと認識しているので、出来ればBGMなどなく無音であるのが望ましい。
 どうしても流すのならば、スーパーで流れているような少し前のヒット曲の気の抜けたインスト、もしくは最新ヒットだけを流す有線、どちらかに限る。両方とも既に過去のアルバイトで経験済みであり、特に現在への悪影響は確認出来ない。それはどちらも聞き流す事が出来るからで、やはり思い入れのある音楽を仕事中に流してはいけないのだ。

The Beatles Super Live

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 夏が終わっていきます。寂しい日々です。

 今日は気温も低く、一日中曇り空。更に、私の地元を含む近隣市町村に被害をもたらした先日の台風を上回る勢力の新たな台風が迫り来る不安。そんな中、今月の私はひたすら余裕が無く、好きな季節を満喫したとは言い難い状況。そんな後ろ向きな感情が積み重なり、今年の夏の終わりは余計に寂寥感が大幅にアップ。

 

 そんな中ですが、あのアルバムのリリースが着々と近付いています。

ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル

ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル

 

  ビートルズ唯一の公式ライヴ・アルバムが、満を持して遂にCD化。2009年のオリジナル・アルバムのリマスター時と同様、9月9日発売。この日にこだわる理由って何なんでしょうか?ジョンのラッキーナンバーと関係あるのかな?

 

 実は、この再発のニュースはAmazonのおすすめに入っていた事で気付いた程度で、詳しい経緯を全く知りませんでした。狂騒の世界ツアーのドキュメンタリー映画ロン・ハワード監督で公開される事は知っていましたが、どうやらそれに合わせてのリリースのようです。映画が再発のためのエクスキューズというか、ともかく良いきっかけになったのかな。

 いずれにせよ、ずっと未CD化だった公式アルバム最後の砦ともいえる作品のリイシュー。非常に楽しみな事は確かです。BBCでのライヴ音源がVol.2まで出たのに比べ、これ程までに遅れた理由はやはり観客の発する凄まじいノイズでしょうか。サー・マーティンのプロデュースによって一度は公式な形で発表されているわけですから、そういった問題はブートレグ等に比べればかなりクリアされているはずだとは思いますが。

 私はこのアルバムリリース時には生まれておらず、一時期アナログを掘り起こしていた頃にも店頭で巡り合った事はありませんでした(それほど意識して探していなかったという事もあるけど)。かつての同僚で先輩(Cloud9氏)に断片的に聴かせてもらった事はあったかもしれませんが、作品として向き合うのは正真正銘今回が初めてという事になります。凄く新鮮で、ニュー・アルバムを手にするかのような気持ちです。

 肝心のジョージの曲がカヴァーの「Roll Over Beethoven」だけなので、そこに不満を感じてアナログ盤を探していなかったのかも知れませんが、何と今回の再発での追加4曲の中に「Everybody's Trying To Be My Baby」が含まれているとの事(これもカヴァーだけど)。楽しみが増しました。

 

 活動中に発表したベストの『Oldies』は名ジャケットながら特にリリースの意義が見出せないので、公式アルバムとしてはこれで全て無事にリイシュー出来た事になるのでしょうか。そうなると、未だソフト化していない『Let it Be』が果たして今後どうなるのか。こちらのハードルはかなり高そうですが、果たして。