(Revenge of the) United Minds

Talkin' 'bout Music, Football(JEF United Chiba) and More.

You say ”Good-bye”, but you may mean "Hello"

 既にイベント当日から1ヶ月以上が経過しているが、予定通りイベント後半戦である2部の様子をレポートする。

 基本的には川原・曾我両氏の発言に感じた事を書いていくスタイルは変わらないが、話の内容がソング・ライティングに踏み込んだものだった事もあり、どうしても私的な音楽体験と絡めて書かざるを得ない。そういった要素が読まれる方からすればノイズになるかもしれないので、そういった方は前回の記事で書いた1部の様子だけを参照して頂きたい。

micalaud.hatenablog.com

 これだけでも、十分イベントの様子は伝わると思う。

 

 

 

目次 

 

John=Ramon

 休憩を挟み、2部がスタート。今回のイベントのメインと言ってもいいパートだ。
3年前のイベントでは、ギリギリまで踏み込んだトークを行い、参加者の度肝を抜いた後半。今回は吉留氏の発案により、川原・曾我の師弟コンビがどのように作曲を行っていたか、その様子を再現してくれるという。ちゃんと同時配信に対応しつつ、これまた画期的な企画が用意されていたのだ。

 

 ギターを持って登場した両氏。DVDやYouTube等で見慣れている通りに右利きの曾我氏に対し、川原氏は何とレフティーの構え。まさにレノン=マッカートニーである。

 プレーヤーとしての川原氏を観るのは、私は正真正銘これが初めて。両者が持つギターのネックがシンメトリーになっている画だけでかなり衝撃を受けているのだが、Twitterを見る限りでは多くのThe Good-Byeファンの先輩方にとってもそうであったようだ。

 しかし、川原氏は左利きではないか? と既にイベント前から推測を立てておられた方がおられた。しかも普段からやり取りして頂いている方である。素晴らしい洞察力! 私もこのシーンは印象的だっただけに、余計に感服した。まだまだ私は修行が足りない。


 ここからは曾我氏がリードしながら、川原氏のアドバイスで特に印象に残った点を、実例を挙げながら立て続けに弾き語っていく。
 「Voice」「Good Lovin'」「Hong Kong Blues」などのコード進行を歌ったり止めたりしながら語られたのは、川原流作曲術の肝とも呼べるものだ。
 同じコード進行を繰り返さず、分数コードなどのアカデミックな、時に違和感を覚えるコードを使って予定調和を崩す。例えば、同じサビの中ですら循環コードのリピートではなく1回目と2回目のコードを大胆に変える。勿論、歌われるのは基本的には同じメロディではあるが、バックのコードが変化する事により緊張感を生み、リスナーに驚きを与える。

 

 同じ事の繰り返しは面白くない。パーティー・ソングで騒いでいるように見えても、実はシャイな顔が見え隠れする。それを、生粋の東京生まれ東京育ちであるから故の性格的なものだと語る川原氏。
 キメキメで格好付けていても、最後はずっこけないと気が済まない、と言っていたのはYMO時代を振り返る高橋幸宏氏だったが、そういった姿勢には共通するものを感じる。
 これは、千葉県北東部出身のカントリー・ボーイにはなかなか真似したくとも出来ない面だろう。私の場合、ずっこけるどころか終始醜態を晒しているだけなのだが…。

 サビに向けて違和感、フックを作れ。多少作曲をかじった事のある人間ならば、誰もが少しは意識する点だろう。だが、それを小手先の盛り上げではなく、大胆にコード進行から変えてしまう事に川原ソング・ライティング、及びプロデュースの妙がある。
 全く高音の衰えない曾我ヴォーカルで実演しながら解説してくれると、その実態が非常に分かりやすい。目から鱗が何枚落ちたかわからなかった。
 やはり、音楽には師と呼べる人物が必要であると実感した。自分に教えを実行出来る能力があるかどうかはともかく、同じような知識レベルの者同士が集まってもなかなかそれ以上は望めない。
 レノン=マッカートニーだって、その影にはジョージ・マーティンがいたのだ。私(我々)もあと一歩、外へ踏み出して誰かにアドバイスを求めるべきだった…と今更ながら思う。

 

 個人的な音楽体験との符合

 唐突だが、「Be My Baby」というポップス史に燦然と輝くマスターピースがある。Complexの同名異曲も我が国のビート・ロックやポスト・ニューウェーヴの流れに大きな影響を与えているが、勿論ここで指すのはThe Ronettsの曲だ。


www.youtube.com

 この傑作に肉薄する日本3大「Be My Baby」を、私は勝手に認定している。吉田美奈子(シリア・ポール)「夢で逢えたら大瀧詠一プロデュース)岡崎友紀「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー加藤和彦プロデュース)、Sheena and the Rokkets「ユー・メイ・ドリーム」細野晴臣プロデュース)がそれだ。

 ドリーミーな音像、歌詞、メロディ。今でも多くのリスナーを虜にする夢見心地の名曲達。極東の地からのリスペクトと挑戦は時代と国境を超え、いずれ劣らぬ輝きを放ち続けている。

 

 怖いもの知らずというかただの愚か者と言うべきか、私もかつてその先人達の志に倣ってみたいと思った。ろくな知識も方法論も知らず、見よう見まねで「Be My Baby」オマージュの曲を作ってみた事があるのだ。

 だが、これをここで公開するほど恥知らずではない。完成度が稚拙である事もそうだが、今聴き直すと明らかに「Be My Baby」ではなくThe Good-byeの「Good Lovin'」を下敷きにしている事が丸わかりだからである。勿論メロディを借用しようと思ったわけではなく、無意識にトレースしてしまっていたのだ。

 

 今回の曽我・川原両氏の解説で、いかに私の曲が表層的で奥行きのないものであるかを改めて思い知らされた。サビのコード進行だけでなく、Cメロにも趣向を凝らして息もつかせぬ(曽我ヴォーカルが休む箇所がないというダブル・ミーニングでもある)痛快なポップ・チューンに仕上がっているこの曲。前述の本邦3強に負けまいという並々ならぬ野心すら感じる。

micalaud.hatenablog.com 元々The Good-Byeの曲でベスト10を作るなら間違いなくランクインする「Good Lovin'」だが、今回の解説と個人的な思い出との合わせ技で、さらに自分の中で重要度を増した曲となった。

 

(質問で) Revenge of the "United Minds"

 一通り2人の演奏とトークが一段落したところで、吉留氏がオーデイエンスに質問を求めた。ここまでの流れを踏まえ、The Good-Byeの曲の背景を知りたい人は挙手して訊いてほしい、との事だった。
 前回もあった質問コーナー、当然今回もこういった場が設けられる事は予想していたのだが、いざイベントが始まってしまうとそういった事はころっと忘れてしまうものである。
 前回は質問にチャレンジしようとするも叶わず、ファンの緒先輩方の前で新参ぶりたい、自分語りしたい欲が満たせなかった事は当時書いた。

micalaud.hatenablog.com

 だが、この欲はブログに幾つか好意的な反応を頂けた事や、他にも様々なサプライズが起きた事で既に本懐を遂げている。
 とはいえ、今回の質問コーナーは挙手する人が前回に比べ少なく、競争率は低そうだ。こういう場で前に出ていかないと私という人間の存在意義が疑われるのではないか。ここは挙手する以外に選択肢はなかった。配信に私の声が乗る事を面白がる気持ちも、数%くらいあった事は正直に告白しておく。

 

 どの曲について質問するのか。もはや全く迷う必要はなかった。私にとって、最も好きなThe Good-bye楽曲を選べばいいだけである。

例えば、「浪漫幻夢~Romantic Game~」という曲は、聴けばわかるようにE.L.O.へのオマージュだ。
だが、曲としての完成度、ヨッちゃんの星座をモチーフにしたロマン溢れる詞、そういった要素がこの曲をオリジナルとしか言いようのないものにしている。
この曲、あまりに好きすぎて、2004年後半は毎日聴いて、ふと気がつけば歌っていました。
何度聴いても、何度歌ってもときめく。今でも変わりません。

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 2004年にThe Good-Byeに出逢ってから、自分にとって不動の1位。まして作曲者本人が壇上にいるのだ。「浪漫幻夢」を選ぶ以外の選択肢は存在しない。

 

 私が吉留氏に指名されたのは3人目。声が掠れるようなか細い声なので、参加者の方からすると緊張しているように聞こえたかもしれないが、個人的には前回のリベンジを果たしているという気持ちが強く、質問を聞いてもらえている事が楽しくて仕方なかった。
「日本人でもジェフ・リンのフォロワーは数多くいますが、自分は曾我氏が一番オリジナリティがあってそのスピリットを受け継いでいると思っています」
「The Good-Byeの中でも特にELO色が強い『浪漫幻夢』が好きで、ベタな選曲かもしれないけれど初めて聴いた時から1番好きな曲です」
「ベタな選び方で申し訳ないのですが、どのような思いを込めてこの曲を作ったのかを教えて下さい」
 この状況を楽しんでいるとはいえ、機転が利かないのは相変わらず。いきなり規模の大きい事を言う(ジェフ・リン云々のくだり)、言わなくていい事を繰り返してしまう(ベタな選曲云々)という悪癖がここでも出てしまう。しかも後から反省しているのではなく、言ったその場で後悔しているのだから世話はない。

 しかし、曾我氏は私の拙い質問にも、真摯に答えてくれた。しかも、最初から最後まで私から全く視線を逸らさずにだ! なかなか出来る事ではない。氏のファンを大事にする姿勢や、J事務所時代に叩き込まれたサービス精神がそうさせるのだろうか。すっかり骨抜きになってしまったし、今後もファンを続けたいと強く思わせてくれた。

 

 曾我氏の回答は、最初は特にELOを意識して作った曲ではなく、川原氏のディレクションが入ってからそうなっていったとの事。Bメロの急展開はやはりと言うべきか、予定調和を嫌う川原氏のアイデアそこに野村氏のギリシャ神話や星座の由来を散りばめたドラマティックな歌詞が加わるのだ。無敵である。
 ジェフ・リン云々はこの曲だけを指して言っているのではなく、曾我氏ソロの「Carry on」のアレンジがモロに「Twilight」だった事も踏まえての発言。「浪漫幻夢」は「Twilight」と「Xanadu」の要素を上手く取り入れ、その上で壮大なサビに繋いでいる曲であると解釈していた。
 だから、最初はELOを意識していなかったというのはかなり意外な逸話だ。結果として現在の形になったわけだが、単にオマージュではない絶対的な強度のオリジナリティがある、The Good-Byeのサウンドでしかないという曲。だから「浪漫幻夢」には底知れぬポテンシャルを感じる。
 思えば、2枚組ベスト『Ready! Steady!! The Good-Bye!!!』を初めて聴いた時、ビートリーかつ歌謡ポップなDisc 1を経て、この曲でDisc 2が始まった事には大きな驚きがあった。もう彼らを聴く前の自分には戻れないと漠然と考え、自分の中でThe Good-Byeが永遠の存在になった。自分にとっては、それだけの忘れ得ぬインパクトを持つ曲なのである。
 The Good-Bye史にとっても、サイケデリックの深淵に到達せんとする『Fifth Dimention』の次作がこの曲で始まる事に大きな意味があったのではないか。ポップ路線への回帰、それ以上に音楽的実験を重ねたからこその成熟を、多くのリスナーは感じ取ったはずである。

 作者である曾我氏・川原氏に、この曲について訊くことが出来て良かったと改めて思う。何かのインタビュー(レココレだったかな?)で話しておられた「ELO版『Xanadu』が本当に好き。あれは大人のポップスの完成形」という話を、今回曾我氏の口から直接聞けた事もそこには含まれる。

 

 ちなみに、他の方がされた「True Love」についての質問の際、この曲の初出を曾我氏も川原氏も忘れておられた。そこに「『Wild Life』のカップリング」と客席から口を挟んだのは私だ。質問の拙さを、この遠藤航並みのカバーリングでどうか不問に付して頂きたい次第。

 

Epilogue

 ウイルス禍の只中という事もあろうが、最後に「You惑-May惑」を師弟コンビで披露し(前回のイベントで流れたデモテープの再現!)、この質問コーナーでイベントは終了。果たして来年のデビュー40周年に向け、更なる動きはあるのか。そんな未来への含みを大いに持たせてくれるエンディングだった。
 前回イベントとは大きく異なる条件下で、新たなトーク・イベントの醍醐味を提示してくれた今回の内容。出演者、スタッフ各位に改めて感謝したい。

 

 個人的には更に嬉しい余録があった。イベントのインターバルとなる休憩時間、一般席の最後列で頼み直したアイスコーヒーを啜っていると、関係者席から少し離れた位置に立っている男性に声をかけられた。

「前回のイベントも参加してらっしゃいましたよね?」
 顔を見ればすぐにわかった。前回、少しだけ登壇してThe Good-Byeのアナログ・レコードのコレクションを披露していた方だ。今回は運営側としてイベントに関わっておられたらしい。
 参加者として客席からステージ上の彼を見た私はともかく、何故私などの顔を覚えておられたのか疑問だったが、男性の参加者が少なかったせいで私の存在が目立っていたらしい。いやはや、何でも参加してみるものである。
 3年前に少しだけ時間を共有しただけの我々だが、こうして互いに顔を覚え合っているのだ。同好の徒ならではとも言えるのではないか。

 

 イベント終了後は、この方と音楽談義をしながらJR渋谷駅まで歩いた。自分より遥かに知識のあるThe Good-Byeファンの先輩と、直接会話するのはこれが初めての事だ。イベントが繋いでくれた縁である。
 The Good-Byeのファンであるという事は、当然ながら音楽の嗜好も似通っているという事でもある。イベントの内容をを踏まえながらELO, XTC, Elvis Costello, 勿論The Beatlesと4人のソロにも話が広がった。短い時間ながら、非常に充実した内容のディスカッションだった。当然ながら、私の自己紹介として必須である「とにかくジョージ(・ハリスン)が好き」という事も最初に告白。

reminder.top

 この記事も、後日この方に教えて頂いた知ったものである。ありがたい事だ。

 

 3年前、そして今回と、徐々にではあるがThe Good-Byeファンの輪に加えて頂けているようで嬉しく感じる。それが錯覚であっても、そう勘違いすることすら今までは出来なかった。勘違い上等だ。
 お陰で、まだまだThe Good-Byeファンはやめられそうにない。来年、アニバーサリー・イヤーに何らかの動きがある事を待ちつつ(「期待は失望の母」「誰かに期待しないで自分の城を建てなよ」と川原氏も深く関わった某人物の声が聞こえてきそうだが)、今後も彼らの曲を聴き続けていきたい。