(Revenge of the) United Minds

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Shogitai Master

 坂本龍馬も、桂小五郎も、高杉晋作もあえて登場させない幕末大河ドラマ、『青天を衝け』。一見、奇を衒った脚本のようにも思えますが、実際は全くの逆。あくまで主人公の渋沢栄一と、その主君であり歴史のメインストリームの只中にいる徳川慶喜、及び対抗勢力である岩倉具視と薩摩のツートップ(西郷・大久保)にフォーカスし、視聴者にストーリーの軸をブレさせる事無く栄一の成長物語と激動の時代を体感させる事に成功しています。
 この時代の人物はそれぞれにファンも多く、ともすれば脚本もそれに流されて過剰にヒロイックな方向へと描きがちな傾向が強い(とくに土佐のあの人)。そこを抑えた筆致で描いているのは、近年の大河では珍しい方向性に感じました。

 物語上では、既に上野戦争は鎮圧(しかも遥か遠くから炎上する上野の山を描いただけで、ここも敢えて直接的な描写を行わない)。栄一の幼馴染みである渋沢成一郎(喜作)も立ち上げに関わった彰義隊が、アームストロング砲など新政府軍の兵器の前に散り散りになり、戊辰戦争も最終局面を迎えていきます。


 同作の「紀行」コーナーにて、かつて上野寛永寺に置かれていた黒門が移築された御寺があると知り、所在地も南千住と自転車で訪れる事が可能な場所であったため、早速見に行ってきました。

 興味を惹かれたのは、上野戦争時の弾痕が門に残っているという点でしたが、これに関しては別の御寺でも見た事があります。

micalaud.hatenablog.com

 加えて、この南千住の地は最近訪れたばかりであり、この近辺には重要史跡が多い事を実感しました。

micalaud.hatenablog.com

 今回の来訪地は、円通寺という曹洞宗の御寺。

www.city.arakawa.tokyo.jp

 間違いなく何度も前を通った事のある場所で、横目で流し見るだけでも敷地の大きさは気になっていました。

 

 目的地にはスムースに到着。

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 改めて正面から見ると、観音像の大きさに目を奪われます。

 まず目に入ってくるのが、今回の最大の目的である旧上野寛永寺の黒門。

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 フェンスに取り囲まれ、前述リンクの御寺のように直接触れる事は出来ません。

 

 それでも、無数の生々しい弾痕が容易に確認可能。

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 当時、新政府(薩長)軍に導入されたばかりの最新鋭装備、後装式の小銃であるスナイドル銃の弾痕なのでしょうか。長州軍はこの銃の扱い方がわからず、前線から一旦撤退して長州軍参謀・木梨精一郎に撃ち方のレクチャーを受けるという何とも悲しい一幕があったようです。司馬遼太郎花神』では、木梨が「わかったのなら早く行け!」と怒っていた場面があった記憶も。

 薩摩に下野した西郷率いる薩軍はその後、西南戦争にてこのライフルに大苦戦を強いられる事となるのは、歴史の皮肉です。前装式のエンフィールド銃しか確保出来なかったのがその理由ですが、これにより薩軍示現流を活かした白兵戦に転換。戦争は長期化する事となります。

 

 閑話休題。この御寺は、坂上田村麻呂によって開かれたとの解説も。

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 空海ほどではないですが、この人も各地に伝説を残していますね。

 

 上野戦争にて、斃れた彰義隊士達の墓所もここに設置。

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 圧倒的な砲撃の前に、彰義隊はほぼ壊滅。戦闘も半日もかからずに鎮圧され、その展開も新政府軍を率いた大村益次郎の予測通りだったとされています。

 

 元より忠義のための戦いだったとはいえ、新政府軍にはとても対抗出来ない人数であった彰義隊は、首脳陣の意見の食い違いで更に窮地へ。上野撤退を主張する頭取の成一郎に対し、副頭取の天野八郎はあくまで上野への駐屯を強行。2人はここで袂を分かち、成一郎は新たに振武軍を結成しての飯能戦争、函館戦争への参戦と独自路線を歩んでいきます。これは大河ドラマでも描かれている通り。

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 反渋沢派が成一郎を斬って撤退論派の失脚を画策し、「奸悪・渋沢を斬る!」と息巻いている隊士の様子は何かの歴史小説で読んだ事があります。これも司馬遼太郎作の短編だったはずですが、タイトルが思い出せない…。

 

 中には、旧幕臣大鳥圭介の名が刻まれた碑も。

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 五稜郭まで戦い抜いた筋金入りの幕臣ですが、個人的には日清戦争時の外交官としてのイメージが強いです。

 

 黒門を裏側から。実は、全く同じタイミングでここを訪れている人が存在し、その方も盛んに史跡を撮影されておられました。

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 私とこの方、2人のオジサンがここを訪れた動機は、共に大河ドラマがきっかけだったりするんでしょうか。

 

 しっかり見たいものは見られたので、今回はこれだけで退散。何よりも暑さが尋常ではありませんでした。

 この近辺にある自社仏閣は、どこも上野戦争江戸幕府末期に関係したエピソードが存在しそうな気がします。まだまだ探る余地はありそう。